2021年10月16日

白鵬と五輪書 序

筆者が白鵬の取り口に通じるものとして五輪書を意識し始めたのはいつ頃だったろう。幾つかの記事や伝聞によって、本人がこの書を愛読しているという情報に触れたことはあったと思うが、具体的な接続度合いに確信めいたものを抱くようになったキッカケが2016年5月に放送された「100分de名著(Eテレ)」という番組であったことは間違いない。
ここで取り上げられた極意の中に、思わず「白鵬やん、これ!」と叫ばずにはいられない技法があったのだ。

連載の冒頭にあたり、まずは当該箇所の提示から始めていくこととしよう。本来は同番組を担当した魚住孝至氏による現代語訳を紹介すべきなのだが、偶然古書店で神子侃訳(徳間書店 1963年刊行)を手に入れたので、今回はこちらを用いて記載していくこととする。
古い本ですが、訳のみならず重要な箇所には随時解説も差し挟まれ、入門書としてとても読みやすく作られているので、興味のある方は是非。


一 敵を打に一拍子の打の事
敵を打拍子に 、一拍子といひて、敵我あたるほどのくらいを得て、敵のわきまへぬうちを心に得て、我身もうごかさず、心も付ず、いかにもはやく直ぐに打拍子也 。敵の太刀 、ひかん 、はづさん 、うたん と思心のなきうちを打拍子、是一拍子也 。此拍子能ならひ得て、間の拍子をはやく打事鍛錬すべし。

【訳】敵の虚をついて一気に打つ
敵を打つのに、一拍子の打ちといって、敵と我とが打ちあえるほどの位置をしめて、敵がまだ判断の定まっていないところを見ぬき、自分の身を動かさず、心もそのままに、すばやく一気に打つ拍子がある。
敵が太刀を、引こう、打とうなどと思う心がきまらぬうちに打つ拍子が、一拍子である。
この拍子をよく習得し、きわめて早い間で、すばやく打つことを鍛錬せよ。
(宮本武蔵「五輪書」 神子侃訳 徳間書店 99頁)


一 二のこしの拍子の事
二のこしの拍子 、我打ださんとする時、敵はやく引、はやくはりのくるやうなる時は、我打とみせて、敵のはりてたるむ所を打、打是二のこしの打也 。此書付計にては中々打得がたかるべし。おしへうけては、忽合点のゆく所也。

【訳】敵をたじろがせてから打つ
「二の腰の拍子」というのは、自分が打ち出そうとしたせつな、敵の方がより早く退いたようなときは、まず打つとみせ、敵が一時緊張したあとたるみが出たところを、つづいてすかさず打つのである。これが二の腰の打ちである。
この書物だけでは、なかなか打つことができないであろうが、教えをうければ、たちまち合点のいくところである。
(宮本武蔵「五輪書」 神子侃訳 徳間書店 100頁)




上記2つの方法は、具体的な鍛錬法について記されている「水の巻」からの引用だが、ここに書かれている内容が、横綱後期の白鵬に多く見られた立ち合いの駆け引き具合に酷似するのである。

「敵を打に一拍子の打の事(敵の虚をついて一気に打つ)」というのは、つまり突っ掛け気味の立ち合いである。相手が予期していない呼吸で(時には手を十分に下ろすことなく)立つことにより腰を崩して、一気に勝負をつけにかかろうとする。
傍目には「(相手力士が)待ったをすればいいのに・・・」と思うのだけど、最初の仕切りで既に不成立があるなどして、ちょうど判断力の鈍っているところを突っ掛けられると、ついつい立たされてしまい、ろくに相撲を取らせてもらえない、悔いの残る結果となってしまうのだろう。


「二のこしの拍子の事(敵をたじろがせてから打つ)」というのは、「拍子の逆を行く」という戦法の代表的なもので、白鵬がきわめて得意とする立ちである。
出るぞと見せておいて行かず、「たるみ」の出た相手が重心をかかとに寄せた瞬間を逃さず突いていく、あるいは、つま先重心になり、ふわっと立ってしまったところへ合わせていく。
いずれにせよ、「拍子の逆をついて」相手の一番イヤな呼吸で立てるのが、白鵬という横綱の大きな強みであった。

では、こうした強み、相手を出し抜く一級の戦術眼はいかなる鍛錬をもって磨き上げられるのだろう。次回、武蔵が提唱する「観の目・見の目」という視点から掘り下げていくこととしよう。



当連載では、大相撲の原理原則(ex.立ち合いは相手と呼吸を合わせる)を一旦隅に置き、
「五輪書」の具体的な提示の中から稀代の「兵法家」白鵬が勝ちに燃やした執念と技法を見出しつつ、横綱後期白鵬の追い求めた境地にできる限り迫っていきたい。






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2021年09月26日

令和3年秋場所 幕下以下の土俵から 13日目

序ノ口
6-1御船山(押し出し)瀬戸の海7-0
幕下上位も経験したことのある御船山と17歳の瀬戸の海。実績の差は歴然としていましたが、瀬戸の海は首を痛めてから取り組み始めたというもろ手突きの精度良く、やや当たり勝つほどの立合い。しっかりと空間を作ってからの叩きなので、多少呼び込み加減でも膝の状態が万全には程遠い御船山はつけ入り切れない。瀬戸の海、強引に出る御船山の下に入って右突きを跳ね上げながら左に回ると、御船が泳ぐところ、バタ足ながらも遮二無二攻め寄せ、向正面側に押し出した。



序二段
7-0日翔志(押し出し)小滝山6-1
立合い少し早く立った日翔志、右で突きながら左でいなして小滝山を崩し、さらに右の突き・左のおっつけを合わせておいての右喉輪、ぐいと伸ばして青房側で勝負を決めた。
アマチュアでキャリア十分の日翔志が、三段目上位経験者の相手をよく研究した上で落ち着いて取った一番と言えるでしょう。



三段目
7-0藤青雲(押し出し)鳴滝6-1
本割20連勝中の藤青雲、胸から当たる立合いで幕下経験者・鳴滝の鋭い踏み込みを受け止めても全然崩れず。軽く左へ受け流しておき、鳴滝が出ようとするところ下から入って呼び込ませる。ここで上体だけ突っ込ませて追いかけると鳴滝の術中にハマるのですが、少しも慌てず足を運び、突き起こして追い詰め、正面から逃さず西に押し出した技量の高さにはアッパレ。
これで21連勝とし、九州場所では幕下15枚目以内への進出が濃厚。一気に相手の実力が上がる地位でどこまでやれるか、早くも楽しみになってきました。


幕下
6-1北の若(寄り切り)深井7-0
これ、立合いからの流れも上手く取られてはいるんですけど、北の若としては、あそこからでも左を覗かせ右でのしかかるようにして体重を預ければ、重みを出すことはできたと思う。結局、それをさせない内に攻めきった深井の判断が一番の勝因ではないかと思いました。
北の若が頭を整理する前、立ち腰で両足が揃った状態で出られたので、あれは残せないですよね。
こういう判断のスピード、相手の嫌な呼吸で攻められる勘みたいなものは、深井という力士にとって大きな財産であり、自分だけの感覚を大事にしてほしいなと強く願います。

一気の幕下5枚目以内躍進が確実な来場所、ノンストップで駆け上がることができるでしょうか。
また、同じくらいの位置でかち合うことになりそうな北の若との再戦なるかにも注目したいところですね。



ということで、今場所の更新は以上。連日ご覧いただきありがとうございました。
来場所以降も幕下特集を続ける予定なので、引き続きよろしくお願い致します。





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2021年09月25日

令和3年秋場所 千秋楽の展望

妙義龍に救われたと言うべきか、正代の乱調に救われたと言うべきか・・・いや、ここは素直に妙義龍を称えましょう。(筆者と同学年にあたる)61組から4人目の幕内優勝なるか、その期待感をもって楽日を待てるだけでも幸せなことです。

2敗 照ノ富士
3敗 妙義龍


6正代○-●●●●照ノ富士8
妙義龍ー明生の結果次第では・・・否、その結果によらずとも、もとより責任重大と意気込んで千秋楽結びに臨んでもらいたい明日の正代。

この対戦も、毎場所のように書いているので付け加えるべき内容は殆どないのですが、今場所の両者の立合いを見ている限り、最近の中では正代が「刺せる」可能性はある方なので、どこまで芯を食えるか。
起こして前に出ていったり、投げや引きで崩した際の守りの強度に関しても同様なので、とにかく立合い勝ちを前提に、起こす・休まず・崩すの3点セットによる攻略がハマるか次第でしょう。


決定戦用
照ノ富士×妙義龍
妙義龍が照ノ富士の反則によって白星を拾った夏場所時の展望は以下



上記記事の中で触れたのが妙義龍の左前廻し狙い。
そして、この時点と比べても、(主に右を差してくる相手に対し)左前廻しを引いて崩す妙義龍の戦法はバージョンアップを果たしており、今場所も栃ノ心・魁聖を一蹴。
これら2番はいずれも左から素早く崩す形でしたが、今日の正代戦では左次いで右と引きつけ、まるで千代の富士×琴風を見ているかのような圧倒ぶり、いやはや驚嘆に値する内容でした。

さすがに、強い時の大乃国みたいな照ノ富士相手に今日と同じ勝ち方ができるとは思えませんが、妙義龍の突進力に警戒を払うからこそ、横攻めが効果を放つ余地も浮上する。そうして崩しの一手がハマり、今場所目を見張る足の運びで追い詰め決着へと繋げられるなら、形としては平成11年名古屋・決定戦、出島×曙チックな決まり方になるのかもしれません。




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