土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。



尊富士の立ち合いは予想通り張り差し。しかし、筆者の想定とは活用方法が異なっていました。筆者が描いていたのは、踏み込みながら張って中に入っていく形。しかし、尊富士が選んだのは豪ノ山の出足を止めて左四つに組み止めるため、つまり四つ相撲の力士が用いる王道的な張り差しの技法でした。
一つ間違えれば豪ノ山の圧力を喰らってまともに後退、痛めた足首に大きな負担がかかりかねない戦法ですが、肚を決めて実行に移した胆力と準備とセンスには脱帽の一言。もちろん、それだけ自分の左四つに対する自信もあったのでしょう。

立合いについてより詳細に見ていくと、手着きはいつものサッと両手を着いて立つ方法を採らず。両手を着いて待つ豪ノ山に対し、左をゆっくり下ろしながら地面に着くや否や擦るように素早く右を着き、豪ノ山の出足に合わせてこめかみ辺りを一閃、この振り抜きがとにかく鋭く、豪ノ山の右脇を空けてたちまち左を返すことができました。
次に足を見ると、普段は一歩目の右足を仕切り線の手前まで踏み込むのですが、この日は張ると同時に左足に重心を移し、右足は浅く前へ出しているものの宙に浮いている状態。豪ノ山が左ハズで押し上げようとするのを左足で堪え、右からの引っ張り込みに成功すると、頭の位置を入れ替えて右から攻める体勢を作りました。

ジリジリと足を前に出して圧力をかける尊富士。左下手右上手をほぼ同時に引いて廻しをぶつけるように向正面へ寄り立てますが、右足の踏ん張りが不足して跳ねるようになり、右上手も伸びていた。土俵際右を離して突きに替えようとすると、豪ノ山タイミング良く左でその手を返し、尊富士の右はバンザイで攻めきれず。
しかし、すぐさま反動を使いながら反対の左下手で崩して攻めを休めぬ尊富士。豪ノ山が左下手を求めると、上体を前傾させておっつけの要領で右から豪ノ山の手先を抱えるようにしながら前へ。豪ノ山左を開いて左を抜きながら右で振り、さらに反対へ腰を捻って尊富士の左下手も切ったが、尊富士右肘を押し付けるようにして仰け反らせ、豪ノ山なおも左突き落としに逆転を狙うところ、尊富士両手で腹を押してトドメ。豪ノ山を西の土俵下に押し飛ばし、熱戦にケリをつけました。


かくして110年ぶりの新入幕優勝は成った。怪我をおしての闘志あふれる土俵は、本人が望む通り、記録のみならず多くの好角家の記憶にも鮮烈に刻まれたことでしょう。
その評価について、一家言がないとは言いませんが、今日という日にあえて口を挟むのは無粋というもの。今はただ歴史的快挙の余韻に浸りつつ、擱筆することとします。


皆様、今場所もご覧いただきありがとうございました。



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ひとまず大の里×豊昇龍のみ行います。尊富士の出場が確認できれば尊富士×豪ノ山も更新予定。


0大の里 ×××××● 豊昇龍1

大の里の挑戦を退け、豊昇龍も2敗キープ。昨日も伝わる人には伝わるだろうというニュアンスで書きましたが、若乃花さんも指摘する通り、個人的には大の里にもろ手で行ってほしかったんですよね。。
ただ、本人がもろ手の立ち合いを「欲が出た」と言っている以上(本心ではないかもしれませんが)、基本戦術は体当たりなんでしょう。豊昇龍は明らかにそちらで来ることを読み切れる情勢でしたから、より左前廻しで止める狙いを貫徹しやすかった。
もっとも、豊昇龍の圧勝かというと、右差して前に出ようとしただけ、投げられた後に反応で押した程度だった大の里の攻めが想像以上に豊昇龍のバランスを崩していたのも確か。足首が返りながら土俵下へ転げ落ちる、確認の物言いがついても良い程度に余裕のない土俵際となっていました。
個人的には、これで評論の親方衆(若乃花さんも含む)が各メディアに記しているような立ち回りを覚え始めたら・・・という空恐ろしさを感じずにはいられなかった。それはそれで簡単なことではないんですけどね。
というのが先場所分の戦評。ここで書いたように、今日の大の里はもろ手突きも視野に入れて、前回同様左前廻しで押さえにかかるであろう豊昇龍の腰を崩すような狙いを持ってもいいんじゃないかなと。
張ってくる可能性を考慮しても、手を出してある程度無効化する選択は悪くないはずなので。
先手を取って右が差せたら、豊昇龍の右腰を生かした投げを封じるためにも、課題としている体を合わせた攻めができるかどうか。昨日の琴ノ若を参考に、豊昇龍が投げを打つ方向へ膝を当てて先回りするようなイメージで体を開かせずに攻めきりたい。



尊富士 初顔合わせ 豪ノ山
豪ノ山としては取りづらいことこの上なく、相手の変化も見据えればフワッとは言わないまでも少し視ていくような当たり方にならざるを得ないでしょう。尊富士はそこを狙うしかない。張り差しで中に入って一気に出ていく以外筆者の中に勝てるイメージが湧いてこない(あとはモロ手を出して突っ張ってから入りにいくとか・・・?)。
1分の隙もなく、不安だけが10割を占めていますが、出てくる以上、豪ノ山の中にある取りづらさを利用して先制することを考えなくてはいけないし、そのために何をするのか。あとはおよそ4時間半後を待つばかりですね。





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尊富士は右足を引いた姿勢から、一歩目の右足を(東から登場する場合は)向正面寄りへ斜めに踏み出していくようにするので、やや右からの崩しには弱く、豊昇龍としては右で張ってバランスを崩す方がプランは描きやすそう。
と書いたのは12日目の見どころ記事。実際には、必ずそのような踏み込み方をするわけではないのですが、今日は右四つの朝乃山相手に左上手を遠ざけるため、上記の踏み込み方をして、まず右から掬われたときに嫌な形で膝が入り、左から振ろうとした場面でさらに怖い捻り方をしている。
最初この立ち方を視た時、直感的に怖いなと感じましたが、よもやこういう結果になってしまうとは・・・言葉にならぬ感情を抱いています。

具体的な相撲内容としては、朝乃山の相手に負けぬ早い立ちと策戦が実りました。策戦とは、右を固めるのではなく、腕を回して差しにいったこと。左右のぶつかり合いになると外に弾かれて中に入られるだろうと予想し、筆者も今日の見どころ記事で(左で引っ張り込みつつの)差し手争いには反対する立場を採ったのですが、朝乃山は力と力で衝突するのではなく、できる限り内側から腕を差し込みつつ、下から掬う意識を持っていた。そのためには遠心力を用いる必要があり、左は抱える動きが必須となる。尊富士の鋭い当たりを利用するようにうまく左へ体をずらすことで尊富士の左からの攻めがハマらないように仕向け、尊富士がやむなく上から左上手を求めるところ、左の引き込みを生かしながら右で腕を返して尊富士のバランスを崩しました。
すべてが計算通りかどうかは分かりかねますが、流れるような手順で尊富士の低さ、疾さ、それに伴う出足を奪ったことは確か。その点、朝乃山の見事な立ち合い勝ちと言えるでしょう。

この後の場面、向正面側から見ると尊富士は左で上手を取っており、朝乃山が右下手を引いた瞬間、左上手から捻っておいての左上手投げで朝乃山の下手を切っている。ただ、この動きによって右膝が内に入り、右足首など他の負傷箇所にも異変が生じたのではないでしょうか。都合、腰も入るような格好になったので、朝乃山はすかさず右を返して青房に追い詰めると、尊富士は右で掬いながら左で朝乃山の右差し手を抜こうとするも、すでに後ろがなく、痛めたであろう右足一本で踏ん張る体勢にもなって、左足から土俵を割り、土俵下、浅香山審判長の方向へ落下。土俵上へ戻るのに時間がかかり、立礼の段階で足を引きずり、自力で土俵下に下りられず、呼出の肩を借りて車椅子に乗って退場。医務室で処置を施した後、救急車で病院に搬送されました。

明日の出場については、若乃花さんのコメント(日刊スポーツ連載)がすべてを言い尽くしているので、素直に引用したいと思います。

尊富士に強く言いたいのは絶対に無理して出ない方がいいということ。貴乃花も稀勢の里も、ここを乗り越え優勝という結果を残しても、後々の現役生活に響きました。記録的な優勝も大切だけど、まだ若く現役生活も長いのだから、絶対に無理はしないでほしいと思います。たとえ、どんな結果になろうとも、ここまでの素晴らしい相撲内容は消えません。軽傷であることを願いながら千秋楽を迎えたいと思います。

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