土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

1敗 尊富士
3敗 豊昇龍 琴ノ若 大の里 豪ノ山





豊昇龍は右前に出ながら右で張って左差しを狙いましたが、この左は囮に近い役割。右おっつけで尊富士の重心が右に寄ると、豊昇龍は向正面を背にして左の力を抜きつつ右上手を探る。尊富士は嫌って腰を引くことにより、さらに右へ傾いた。豊昇龍は上手こそ掴めなかったが、右で抱えるや左足を軸に右足で尊富士の左足を跳ね上げて、腰に乗せるような小手投げ。尊富士まんまとハマり、横転しながら行司溜まりへと転落、ついに連勝が止まった。

これは、土俵上で起こった現象を書き留めたものであり、豊昇龍が目指したのはあくまでも右で上手を引いて一呼吸置くような流れでしょう。求める展開とはならずとも、相手の体形が崩れるのを瞬時に見抜き、反応と右腰の強さをたのみに勝負手を打って、尊富士に対処の時間を与えなかったところに、この大関の凄みが詰まっています。辛勝とはいえ、番付の価値を示す大きな白星となりました。

一方の尊富士としても、解説の武隈親方が指摘した通り、前に出て負けた内容である以上、まだ「神話」は崩れない。先場所新十両で初日から9連勝した後に連敗した際には、横綱から「押し勝っているんだから焦る必要はない」と声をかけられて気を取り直し、終盤4連勝、優勝に漕ぎ着けた。
その言葉も思い出しながら、明日以降しっかりと切り替えてくれるでしょう。

それにしても、両者の動きの疾いこと。あまりのスピード感ゆえに、行司容堂はかわしきれずに左足で豊昇龍の左足を踏んでしまい、回り込むのに必死で決着の場面を目視することができなかった。
とはいえ、あんな速度で向かってこられたら酷でしかないし、転倒しなかっただけでも見事な反射神経。したたかに衝突して怪我をしたり、勝敗に影響を及ぼすことがなくて良かったという感想に尽きますね。来場所以降も両者の対戦は行司泣かせとなることが必至でしょう。







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德勝龍×貴景勝・照ノ富士×志摩ノ海などの過去映像引っ張り出して、見返しながら展望書いてたときも大変だったけど、純粋な初顔合わせで連日書かなきゃいけないのも難しくて連日困惑しています。

尊富士 初顔合わせ 豊昇龍
尊富士としては優勝に九分九厘近づけるか、豊昇龍としては歴史的大逆転への第一歩となるかの一番。
豊昇龍としては張って出足を止めようとするか、自分も頭でかましていくか、それとも普通に差しにいくか、はたまた変化をするのか。
今場所は差すとすれば右に偏っており、それは恐らく体調の問題とも関わっていると思うのですが、足の状態は決して良いように見えず、ここ数日は踏み込みが小さくなったり、右へ飛んだり、両足で跳んだり・・・その状況に鑑みると、スピードで尊富士に対抗するのはやや厳しいかに見える。ただ、誰より気の強い大関ですから、勝ち越しを決めたことも追い風に「どれほどのもんだ」と真っ向当たり合う構図もありうるのかなと。中に入れないというよりむしろ自分が中に入るくらいの相撲は尊富士にとっても嫌だろうし、なるべく自分の的を小さくしながら、内から内からの意識で入り込んでいきたい。

現状の体調を考慮して捕まえにいくとすれば、自分も踏み込んでいくというよりは、迎え撃ちながら小さく張っていくのが適切か。優勝した昨年名古屋の千秋楽、伯桜鵬を破ったときのイメージですね。
尊富士は右足を引いた姿勢から、一歩目の右足を(東から登場する場合は)向正面寄りへ斜めに踏み出していくようにするので、やや右からの崩しには弱く、豊昇龍としては右で張ってバランスを崩す方がプランは描きやすそう。今場所ほぼ一貫して右差しを狙っていることも尊富士は研究しているはずで、右から張れば意表を突きやすい。左差しというよりは右上手のイメージで先に先に動きたい。
あくまで体調が許すならの条件付きですが、大関にとって乾坤一擲の一手となるでしょうか。







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立ち合いは尊富士が先に仕切ってチャレンジャーとしての振る舞いに徹しました。左を先に下ろす手着きも、阿炎戦のように右手を仕切り線から遠い位置に置いて呼吸を測る仕草なく、すぐ前に体重をかけていった。ゆえに、立ち合いの瞬発力を最大限生かせるわけではなかったと思いますが、それ自体も想定済みではあったはず。
琴ノ若はもろ差し狙いでやや右に出る立ち合い、お互い左が入って右でおっつけ合うと、琴ノ若が左を抜いて尊富士のバランスを崩し、右から攻めようとしますが、尊富士は左で琴ノ若の右手を外しながら右後方へ飛び退き、曖昧な距離ができる。
琴ノ若先に動いてもろ手で止めてから差そうとしたか。しかし、尊富士は左で胸を突いて琴ノ若を下げるや、右で踏み込みながら一つかましつつ右を差して左ハズ、琴ノ若の中で大きくなって、右を強烈に返しながら怒涛の寄り。琴ノ若、左足前で堪えようとするも、右の引っ張り込み効かず、完全に腰が浮いて成す術なく向正面赤房下へ寄り切られた。
勝った尊富士は大鵬以来の新入幕11連勝、両國以来110年ぶりの新入幕優勝へまた一歩前進した。

先場所来、この力士は立ち合いの瞬発力だけじゃないと書いてきましたが、改めて流れの中からでもこれだけ強いと証明する一番になりました。技術以前の思考が確かな力士という実感ですね。
それにしても、琴ノ若のもろ手に応じたところからの攻勢ぶりは異次元。なんであの左の突きであんなに下げられるのか、その後の右からの攻めはこれ以上ないほどの上下連動ぶり、琴ノ若の中で大きく膨らみ、人間ヨギボーの空気を抜いて吹き飛ばしてしまった。
右の差し手が得意の左と遜色なく返ることも、湘南乃海戦で指摘したと思いますが、再度のアピールとなり、足も交互に出て踏ん張りが効き、決して危うくならない。下半身ばかり書いてきましたが、上半身の安定感ー目のつけ方、顎の引け具合、崩れぬ前傾ーも負けず劣らず、攻めの方向と一致していてロスがなく、相手に十分力を伝えることができている。
型にハマること、上体と腰が連動して動くこと、それが攻めの威力を倍加させ驚くべき推進力をもたらすことの痛快さをこんなにも愉しませてくれるのは、尊富士という力士が初めてかもしれない。
今日は上位者に対する敬意も見せ、ますますもって言うことがありませんね。





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