佐渡ヶ嶽部屋
千代の山キラーとして鳴らした元小結・琴錦の11代佐渡ヶ嶽が、花籠部屋から独立して昭和30年に創設し、横綱・琴櫻の12代、関脇・琴ノ若の13代へと受け継がれてきた名門。
長きにわたる歴史の中で育て上げられてきた名力士の数々は、一々その名を挙げるまでもないだろう。
現在は元大関琴奨菊が晩年に入り、元関脇の琴勇輝も再三の怪我で幕内上位に返り咲けていないものの、琴恵光が新たに入幕、幕下以下にも次代を担う有望株が相次いで台頭しており、先行きは暗くない。

角界随一の大所帯において、中学卒業後の入門者を毎年のように複数名迎え入れている点は時世を考えれば特筆に値する強みであり、とりわけ過去2年(29年・30年)は計9名が入門、順調な出世ぶり(31年春時点で5名が三段目経験有となる見込み)でも期待を集めている。
そこに高校相撲の強豪から鳴り物入りで飛び込む新弟子や、柔道・レスリングなど他競技経験組が加わり、毎年おおむね6~7名ほどが部屋の門を叩く状況は、すでに初場所で柔道出身の琴進が入門した31年(新元号元年)においても継続されそうだ。



当ブログが推す有望5力士
琴太豪
(H5 大分 188 138)
3年半前に書いたリンク先記事をはじめ、それ以前も以後もTwitterでも何度となく取り上げてきたゆえ贔屓に近い実感を抱いている存在である。
あまり出世の速い・遅いを論わない筆者であっても、この人の十両昇進には「待ったなし」の声を掛けるよりほかない。
技術的な指摘も書き尽くした感があり、体力面も理想モデルに掲げた阿夢露の往時を追い抜かんとするほど。残されしは一にも二にも「この一番」を勝ち抜く精神面の問題だけ。一つの壁さえ踏み越えてしまえば、来年の今頃、幕内上位で相撲を取っていたとて少しも驚くことはないし、そういう例は過去に幾らでもある。


琴鎌谷(H9 千葉 186 158)
ご存知横綱の琴櫻の孫にして、当代佐渡ヶ嶽(琴ノ若)の息子。
埼玉栄高相撲部出身で27年11月デビュー以来、着々と心技体の器を満たしながら、いよいよ関取昇進ー琴ノ若襲名ーの機を熟させんとしている。
元々上体の柔らかさ・手の使い方の上手さが光る力士(乱暴な括り方をすれば英乃海タイプとも言える)ではあったが、最近立ち合いの圧力が増したことで、突いてくる相手や廻しを引いて食い下がる曲者タイプを下からあてがうようなハズで起こし、正面から逃さぬまま難なく片付ける迫力も出てきた。

31年春はいよいよ5枚目以内進出が予想される。今後の十両定着まで見据えた上で課題を挙げるなら、まだまだ馬力・体力に秀でた相手にはハッキリと力負けするケースが多いこと。
とは言え、依然体作りも途上の時期にある21歳。1年目で幕下に上がり、2年目に定着、3年目に上位進出を果たしたキャリアは順調のそのもので、目先の結果を焦る必要は皆無。まずは4年目の成長ぶりに大らかなる期待を寄せたいと思う。


琴手計(H11 千葉 188 155)
埼玉栄高では琴鎌谷の2年後輩だが、すでに兄弟子に劣らぬ関取級の体躯で、下半身の大きさがひときわ目を引く。
デビューから1年が経ち、2度目の幕下となった31年初場所では6勝1敗の好成績。立合いは最近頭から当たるケースも増えてきたが、大型が窮屈そうに頭だけ下げるのではなく、踏み込みも出足もあるのが良いところ。高校まで右四つ得意で鳴らしてきた実力を持ちながら、突っ張りやすそうな相手と見るや、それだけで勝負をつけにかかる積極的な姿勢も将来性の高さを担保する。

突いて出たり、押し込んでから四つに組む形を作ったときには足も腰もよく前に出ているのだが、むしろスンナリ右四つ左上手で捕まえた際に差し手の使い方が甘かったり、足を使わず強引に攻めようとしたりする欠点がチラホラ。そのあたりもいずれは矯正していくべきなのだろうが、今は幕下上位のスピード・パワーに対抗すべく、番付を駆け上がったときの朝乃山を手本に、前哨戦での高い攻撃性能を身につけることが最重要になりそうだ。


琴隆成(H8 佐賀 168 120)
いきなり個人的な話を始めて恐縮ながら、筆者は他の趣味との兼ね合いなどで5~9月の本場所については、幕下以下の取組を11~3月ほどに詳しくチェックできない視聴行動が長年続いている。
この習慣にもメリット(?)らしきものはあって、半年も視ていないと明らかに体の大きくなった力士の存在に気づきやすい。30年11月にこの人の姿を観たときが正にそうで、三段目力士に混じればいかにも頼りなかった以前の体つきが、あんこ型に近いほどの膨らみ具合へと変貌していた。内容を見ても、大きな相手に立ち合い真っ向から踏み込んで全然当たり負けず、反対に下から下からハズにかかってブリブリ攻め返してしまう。
以前は差した際の肩の使い方や体の寄せ具合に非凡さを感じていたが、新幕下で見事勝ち越した31年初場所を見ても、現在は押し相撲のカテゴリが適する力士へと育ちつつある。立ち合いの呼吸を掴むのにも長けており、先手を取った上で中に入るなり食いついて崩すなり出来れば、持ち前の上手さもより効果的に生かされるだろう。
左太もも裏の大怪我で三段目から番付外まで落ちたこともある苦労人は、不屈の闘志で幕下へと上がり、さらなる上昇を見据える。


琴佐藤(H14 山形 175 114)
今年度分の「有望力士ランキング・最高位三段目以下ver」にも隠し球としてランクインさせた逸材。
30年11月の序二段上位、まだまだ体つきも幼い16歳が、左肩を出しながら右足で踏み込んでの右前廻し狙いという大人びた相撲の取り方をしていて驚かされた。
小さいながらも固太りでバランスの取れた体型は、取り口違えど前年度分の「ランキング」に組み入れ、17歳で幕下昇進を果たした1学年上の佐藤山を彷彿とさせる。同時期の佐藤山同様、まだ正しき型のもとで取る相撲に体力が追いつかず敗れる相撲も目立つとはいえ、勝ち方に再現性がある分、本格的に体が出来始めれば、急激に伸びたとて意外性はない。
未来予想図として、もっともしっくり来るのは遠藤。もう一息、身長が伸びそうな年齢ゆえ何とか180センチ級にまで達することを願いたい。
同部屋・同世代・同地位にひしめく4~5人のライバルともども、まずはしっかりと三段目に定着するのが31年の目標だろう。




・その他の注目力士
 この部屋の力士に共通した特徴として、差し手の返しーとりわけ肩の使い方ーに優れた人の多さが目立つ。決して腕の力だけで身につく技術ではなく、体全体の総合的な力(いわゆる相撲力と呼ばれるものに近い)が必要とされるところ、琴奨菊以来の体幹トレーニングがよほど所属力士に好影響を与えているのだろうか。
近年やや軽視されている感もある差し手側の技術にスポットを当てる意味でも、一度有力各誌に検証してみてもらいたいテーマではある。


琴翼(H4 愛知 176 120)は、30年秋に幕下通算6場所目で初の勝ち越し。さらに九州・初と勝ち越しを続けて、大阪では最高位の更新が濃厚となっている。
相撲ぶりについては、一言で言うなら曲者タイプ。相手にとっては間違いなく嫌らしさ・取りづらさを感じるタイプだが、出入りが激しすぎるというか、かき回さんとする思いが先行するあまり寧ろ損をしているような印象も。低い踏み込み・下からの粘っこい押し・左前廻しを引いての食い下がりもあるのだから、あまり飛んだり跳ねたりに拘らず、緻密に正攻法を取りきってもらいたい。
その上で時折奇襲も織り交ぜる、照強のような取り口が理想だ。


琴大龍(H5 福岡 176 117)は、幕下に王手をかけた一番で7たび敗れ続けた末、30年初場所で念願の新幕下。同名古屋で初めて勝ち越し、31年は定着がノルマとなる。
30年九州前に左足首を痛めたため、31初を含めて立ち合い右足から鋭く踏み込みづらい状況。したがって自分よりも大きな相四つ力士に対して胸を合わされてしまいがちであったが、それを抜きにしても、いかに右を使って先手を取れるかが先に向けての鍵となりそうだ。


レスリング出身の琴稲垣(H6 奈良 179 136 平成31年春場所より琴裕将に改名)は、法大を中退して21歳で入門。デビューから2年足らずの30年初場所で幕下昇進を果たした。
ハズにかかる格好の良さのみならず、下半身が硬くバッタリ行きがちなところまで栃煌山とよく似ている。30年秋には幕下22枚目まで進出も、そこから2場所連続の1-6。少しスランプ気味というか、上半身の使い方に神経が行き過ぎて足が動かないような内容が多かった。
夏場所中に25歳を迎えるとはいえども土俵年齢は若く、今は辛抱強く押し(ハズ・おっつけ)の型を磨き上げていくことに尽きるだろう。
誰得のプチ情報ながら、奈良県出身の筆者は德勝龍以来の新十両昇進を陰ながら期待しています。



※あまりにも対象力士が多いので、ここからはフラッシュ形式で。

30年九州新幕下の琴力泉(H6 岩手 178 119)は、郷土の大先輩にあたる栃乃花(現二十山親方)を思わせる下から跳ね上げておいてのもろ差しと前廻しを浅く引いての寄り身。
31年春新幕下濃厚の琴誠剛(H6 福岡 185 131)は、膝の大怪我によって三段目上位から序ノ口まで番付を落とすこと三度、初土俵から6年でついに博多帯を締める日が訪れた。
琴砲(H9 宮崎 174 149)も、28年春のデビュー直後に膝の怪我で番付外へ。再起以降は順調な出世で幕下入りが近づいてきた。砲(おおづつ)のように迫力満点の突き押しで徹頭徹尾攻めまくる。
30年九州で7戦全勝(序二段)の琴浦崎(H13 三重 175 91)は、琴翼タイプの撹乱戦法。三段目定着には今暫くの期間を要すだろう。

快調に三段目入りを決めた30年デビュートリオも面白い。琴紺野(H12 北海道 180 129)は右喉輪左おっつけ、琴粂(H15 山形 182 125)は胴長の体型を活かした二本差し狙いと基本戦略が定まっている。わんぱく相撲などで実績を上げてきた琴伊藤(H14 秋田 174 111)もさすがのセンスがあるだけに、まずは両足跳び気味にふわっと出る立ち合いを強化していきたい。