貴景勝光信 出身:兵庫 生年:平成8年 所属:千賀ノ浦 身長:175センチ 体重:169キロ
平成30年版はこちら

<立合い分析>
突き押しを得意とする力士のうちでも、立合いから思い切りかまし、足を前に出してガンガン圧力をかけていくというよりは、低い構えでもちゃもちゃと相手の狙い(差したり捕まえたり押し返したりなど)を外し、ジワジワ押し上げながら自分の距離を作って、いつの間にか相手を土俵際に追い込んでいるという粘り型の押し相撲にカテゴライズされるタイプである。

2年前の記事で「立合いの当たりで一つ相手の体勢を下げるなり上体を起こすなりし、スムーズに余裕を持って二の矢の攻めが出せるようになればなるほど利得が大きい取り方であることも確かであり、その点、7~8分の力で当たる意識は維持しつつ、その最大値を高める方向性で立合いの精度向上を図っていくというのが理想的と言えるだろう」と書いた立合いの強化はいっそう順調に進み、大関へと栄進していく過程においては、相手を電車道で一方的に運び去るような勝ち味が目に見えて多くなった。

新大関場所で右膝を痛めてからは足腰の安定性が損なわれ、立合いの変化でバッタリ行くような相撲も散見されるが、あまり考えすぎると悪い方向へ向きやすいタイプ(後述)でもあるだけに、かつての北勝海や最近の琴奨菊同様、ある程度割り切って考えることも必要か。


踏み込み足
:Ⅰ左足から出るⅡ右足から出るⅢ胸を出すような相手には、助走を取るように小さく左を一歩出してから右で踏み込むことも。右膝を痛めて以降は二歩目となる右足の遅れを懸念してか、ややⅠの割合が減少している。
手つき:①左を回すように動かしてからサッと両手を下ろして立つ ② ①のような動作を経ずに素早く両手を下ろして立つ③両手を下ろして相手を待つの3パターンが殆ど。かつて指摘の多かった仕切り線オーバーの手つきは改善できている。
呼吸:基本的には相手に先に手を着かせ、それなりに焦らしてから立ちたい方だが、同タイプとの対戦では先に両手を下ろして待つことも多く、また先に両手を下ろすタイプとの対戦でも自分が先に下ろすことがあるなど一定していない。
立合いに作戦を練りすぎると、意図と体がまるで噛み合わない妙な立合いになってしまう場合も多く、31年春の逸ノ城戦、元年秋の豪栄道戦は典型的な失敗例。


立合い技一覧 
ぶちかまし
基本の型。額で当たりながら両手突きのような格好で相手の肩口から胸のあたりを突き上げる。張り差しを警戒して右手を出したり固めたり、相手の狙いを予期した上での使い分けも。
おっつけ
額で当たりながら、差してくる側の手をおっつけ、もう片方を突くようにして立つ。
ハズ
引っ張り込みにかかるような相手と対する場合などは、額で当たりながらそちら(引っ張り込みに来る)側でハズにかかり、相手の狙いを封じる。もう片方は突く格好。
跳ね上げる
相手のかち上げなどが想定される場合、額で当たりながら、そちら(かち上げに来る)側の腕を固め、下から跳ね上げるようにして対応する。 



<攻防分析>
「攻防においても突き放しの腕がよく伸びるようになって圧力がつき、幕内上位でも思い通りの展開・自分の距離で取れる余裕が備わってきた」というのが2年前の評。
立ち合い同様、当時から劇的な変化があったというよりは、延長線上に地力を伸ばしたり広げたりしながら強くなっているという感想で、さらなる馬力と突き放しの精度向上が相手の体勢を崩し・仰け反らせやすくさせ、従来(足の運びの遅れから)途切れがちだった攻めのリズムを高めることによって、押し(突き)切る勝ち味の増加(=突き落とし・はたき込みによる勝ち星の減少)に結びつけている。元年秋の玉鷲戦や竜電戦は「押し相撲の角界第一人者」たる力量を存分に発揮した一番と言えよう。
反面、当たり勝てなかったり、速さ負けないし駆け引き負けして中に飛び込まれた際、相手をまともに呼び込んでしまう・突き起こしが効かないときに相手を見たまま足を揃えがちになるといったデビュー当初からの癖はなかなか抜けず、三役・三賞常連ではなく、強豪大関としてもうひとつ上の番付を目指すにおいては乗り越えねばならない懸案事項と言えそうだ。

四つはどちらかと言えば左。半身になればそれなりの重さはあるが、技術的には殆ど何もなく、また努めて身につける必要性も感じない。向上させる余地があるとすれば、主に組まれたときの対処法-特に引っ掛けられた前廻しやガバッと引かれた上手廻しを素早く切る技術-だろう。


☆得意技一覧
独自の突き押しスタイル
いわば突きと押しの混合のような形で、当たった後も立合い①の要領でかましては突き放しを繰り返しながら、合間に両手を前に出し、少し屈むように構えることで左右への動きを許さず、正面から逃さぬようにじわじわと攻めていく。
このような詰め方によって出足の不足を補うことができるし、それでも残されそうと見るや、無理追いはせず、もう一度攻め直す根気強さも持ち合わせているのがこの力士の精神的に円熟した部分。元稀勢の里の荒磯は上記のような取り口を指して「四つ相撲のような押し相撲」と呼んでいるが、正鵠を射た表現だと思う。


叩き込み・突き落とし
立合い当たり合って間隔が空いたところ、相手が上体を前に倒しながら出ようとする足を利用して左に開き、叩き込む乃至突き落とすのは貴景勝の18番である。叩き(いなし)やすい距離を生かすのではなく、あくまで距離を縮めて押し込まんとすることに意識を向けられるようになったため以前ほど繰り出す頻度は多くない。


張り手
お互いに上体が立ち、見合う体勢になったとき、陽動的に繰り出す張り手は現師匠の千賀ノ浦も現役時にしばしば用いていた。最近は使用頻度減。