土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2014年09月

場所終わっちゃったので、慌て気味に行きます。十両以下はまた場所後に触れるということで、残り3日分まずは幕内の相撲を2~3番ずつダダダッと。

○10-3安美錦(肩透かし)隠岐の海10-3●
トピックとしては2敗の隠岐の海が破れ、優勝争いから後退・・・ということなのですが、表現したいのはやはり安美錦の冴え渡る技能相撲。
隠岐の海は右かち上げ気味に当たって左を差す相撲ですから、立合いに動いてそれを喰うタイプではなく、逆に立合いに変化をする方でもないゆえ、安美錦にとってはシンプルに頭からガツンと当たっていきやすい相手。逆にまともに胸が合ってしまうと体力差で苦しくなってしまいますから、この日のように前傾でモチャつきながら相手の左を殺しつつ焦らして仕留めるのは理想的な流れ。細かく崩してはすかさず前に圧力をかけていきますから、隠岐の海としては完全に安美錦ペースに持ち込まれ、攻めるに攻められない。ここで左を差して起こす狙いだけではなく、ガバっと左から抱えていくくらいの攻め方をしても良いんだろうけど、安美錦が右からアレコレ仕掛けてくるから、どうしても「お付き合い」してそっちの攻防に持ち込まれてしまうんでしょうね・・・

それにしても見事なのは足の運びの上手さ。土俵の砂をざざざっと噛ませる音は録音してCDにでもしたくなるような美しさで現役力士では妙義龍と並び随一のものがありますが、もちろん決して観賞用(?)ではなく、無駄なく上半身の動きに即して連動し、この日のように後ろに目がついているかのような精度で丸みを生かし、相手の圧力を逸らしていく様は壮観の一言。彼のおじさんであり、師匠でもある伊勢ヶ濱親方も現役時にはこの芸術的な肩透かしを得意技としていましたが、安直に言えば血筋ということになるんだろうけど、もちろん決してそれだけではない努力と研鑽の賜物でもあるでしょう。

もう少し細かく検証すると途中までは半身気味に受けていたはずの体勢をぐっと左足を踏み込ませて正対加減にしつつ、右でグッと内側に力を集中させて圧力を加え、それに釣られて隠岐が前に出ようとする端(足が揃ったタイミング)を利用しての肩透かし。体を開く直前、あたかも撒き餌をするかのように右足をぶらりと浮かせる動作は勉強不足で断言できませんが、膝のクッションを使いやすくするためにやってるのかな?何にせよ観るだけでは飽きたらず自ら体を動かせて何度でも動作を真似てみたくなるほどに鮮やかな技能相撲。結果的にはこの一番の勝敗と内容が今場所の三賞受賞という点で両力士の明暗を分けることになったように思えてなりません。


●12-1白鵬(寄り切り)豪栄道7-6○
先場所前に豪栄道は白鵬という相手を必要以上に大きく見過ぎない余裕や自信が具わってきていると書いたのですが、周知の通りの結果を経て、3連勝を目指した今場所は逆に白鵬が豪栄道という存在に特別な意識や警戒を払わざるを得なくなったのかというような内容に(立場的にはどことなく千代の富士が晩年霧島を苦手としたこと(負け、勇み足で勝ち、負けでその後は対戦なく引退)に近い印象もあります)。
白鵬が仕切り線のだいぶ後ろの方に仕切ったのを見て、豪栄道は一度不成立で考える時間ができた後、「普通に行ったら懐が深いし、捕まると思ったから」と右手を出しながら左前廻しを狙う立合いに。白鵬が右を抜いて左四つになるも上手を引いてからの攻めが迷いもムダもなく一息に攻めきったことで残す腰を与えなかった。
常幸龍×白鵬、あるいは逸ノ城×豪栄道戦で書いた内容に即せば、立合いからの手の動きや左前廻しの取り方は本来あのまま出し投げ気味に左へ動き横へつくような流れに持っていかなければならないはずなところ、今回もそうはなっていないのですが、白鵬が嫌がって右を抜き、深い上手を取ったところで下手も深くできましたから、うまく下に入る形でくっつくことに成功、そこが勝敗を分けるポイントに成りました。改めて左四つでも十分に立ち回ることが出来る力量および適性を証明した一番であり、個人的には今後にわたって1つのキッカケとすべき内容ではなかったかなと思っています。


○12-1逸ノ城(はたき込み)鶴竜10-3●
逸ノ城の立合いの駆け引きについて批判がありますが、これは彼だけが悪いのではなく、今場所はもちろんここ数年の土俵で上位陣が常習的に行ってきたことのツケが回ってきたと考えた方が良い。特に過去の記事で読者の方には耳にタコが出来るほどの回数を書いてきたゆえ、あえて名指しはしませんが、近年の大相撲における「屈指の黄金カード」と呼ばれてきた対戦において、両者が毎回どのような立合いをしてきたかを考えれば、駆け出しの取的として、ないしアマチュアの立場からそれらを見てきた力士たちにいい影響を齎すはずがありませんよね。仮にこんこんと本質を説いて理解させた上で逸ノ城の「矯正」に成功したとして、対戦する上位陣があいも変わらず同じようなことを繰り返していては、結局はそっちが正しいんだということになってしまいますから。。

まあ、もろもろ含めて逸ノ城を取り巻くアレコレは来場所も話題の中心で在り続けるということですね。そして、立合いに関しては最近毎場所書いてますが、そろそろ講習会を開き、協会として最低限の改善努力を示す時期にあると思っています。

逸ノ城旋風吹き荒れる幕内の土俵から2番をピックアップ。

幕内
○11-1逸ノ城(上手投げ)豪栄道6-5●
取組前の予想としては、豪栄道が左四つを狙うんじゃないかと思ってたんですよねえ。すでに多くの識者が指摘する通り、豪栄道という力士はどちらかと言うと下手相撲ですから、左前廻しで食い下がるというよりは右を深く差し、左は深めの上手で大きな力士とも胸を合わせ気味になります。
膝の爆弾を抱えたことにより、今後はあまりそういう内容に頼れなくなるのでは・・・という趣旨を場所前の展望には書いたわけですが、この一番も右差しを狙えば相手得意の左上手を許す可能性が高く、勝敗は別にしても大相撲になって膝に負担がかかる展開は避けられない。ならばケンカ四つになっても現状ではまだ差し勝てる可能性が高く、本人がそう思っているかはわかりませんが奇しくも翌日の白鵬戦で証明した通り、定石通り差し手の側に上手を利かせて攻めていく勝ち味や腰の落ち加減などにおいては右四つ時よりも優れているのではないかという評も聞かれる左四つ(琴奨菊が左四つよりも左前廻し狙いの右四つの方が形は良いと言われ続けていることとも類似しますし、数日前の記事で書いた通り、稀勢の里戦では最近意識的に左四つを狙いますよね)に組む方が逸ノ城には対しやすいのではないかという想像もありました。
 
しかし、実際は立合い、右を相手の脇腹辺りに当て肘を張り気味に上手を嫌いながらやや左にずれて上手を狙う動き。それ自体はまったく問題はないのですが(強いて言えばもう少しだけ立合いの踏み込みがあればとは思います)、この立合いをするなら左上手をとって安心したように止まるのではなく、本来出し投げで左に動き横について相手の上手をさらに遠ざけつつ下手も殺しに行かなければいけないのに反応が遅く、何もできない間に逸ノ城は右下手をしっかりと利かせ、膝を曲げてそうそう動かない態勢を整えられてしまう。翌日解説の玉ノ井さんが話していた通り、このあたりの引き出しを欠くことが豪栄道という力士の明確なウィークポイントなのだろうと評さざるを得ません。

ただ、これだけなら攻めはともかく、豪栄道にもまだ残す腰自体はある。勝敗を分けたのは豪栄道の右と逸ノ城左の攻防でした。上記したような定石通りの流れならば豪栄道の右は左へと動く流れの中でハズに当てるなり、前廻しを狙っていくなりしたいのですが、左への動きがなかった分行き場を失ったように狙いを徹底しきれなかった。
下手を引く動きに出たことで引っ張り込まれると中途半端にやめようとしたことが災いし、下手は引けないわ、手首を肘でロックされたように動かせないわで手詰まりに。どうにか抜いたと思いきや、そこに太い腕が内側から伸び、二本差しを許す。慌てて右前廻しを探るも届かず、その間に逸ノ城の右が廻しを掴んだ。
ただ、この時点で逸ノ城も体が伸び、左の差し手も窮屈でしたから、ここで我慢して右から相手の腕を極めるなりして右を切っていれば(あるいは極めた後少し振って揺さぶってから巻き替えに行くか)良かったのですが、取られた瞬間たまらずに巻き替えに行ったことで、逸ノ城の右は浅い位置の良い上手に。すかさず寄り詰められ絶体絶命。間髪入れず、左からのひねりも利かせた逆転のすくい投げを狙う当たりは豪栄道という力士のセンスですが、逸ノ城の右下手も十分で腰を回せませんし、逸ノ城も寄り詰めるところからして、上手から差し手の方に寄っていますから、安易に投げに体を浴びせるようにするのではなく、上手投げを打ち返すようにして、相手を左方向に逃すことなく勝負を決めることができました。その意味で決して力でねじ伏せただけの勝利ではない基本技術の高さも改めて大いに示した一番だったと思います。


○8-4琴奨菊(寄り切り)鶴竜10-2●
なかなか四つに組めず、引き・叩きで勝ち星を拾ってきた鶴竜の取り口はどこか足首に不安を抱えながらも騙し騙しに白星を重ね、後に自らその場所の経験が綱とりへの転機になったと述懐した昨年九州の相撲内容を思い起こさせる。
それだけにやはり力相撲となるとだいぶ苦しいよう。この日は立合い右かち上げで大関のバランスを崩したものの、付け入ろうとした流れの中で横につけず、持ち直した大関得意の左四つに組んで胸を合わされてしまったことが最大の敗因。
その形から巻き替えたり、深めの右上手の位置を変えたりと体勢を良くするための工夫なく、逆に簡単に右上手を許し、防戦一方に相手の圧力を受けるのみだった負け方は体に十分力が入っていない感も濃く、コンディションの悪さを懸念せざるを得なかった。失意の2敗目というよりは、むしろ終盤まで1敗を維持してきたことを評価すべきなのかもしれない。

一方の琴奨菊は途中の3連敗でどうなるかと思われましたが、その後は復調し、12日目での勝ち越しに。深くとも右で上手を取れるとやはり強いですし、この日は攻め方自体も上手かったですね。 

更新遅れて申し訳ないですが、先に三賞最終予想だけアップしときます。

殊勲 逸ノ城  嘉風負け越しにより単独受賞が濃厚
敢闘 逸ノ城  特に説明なく濃厚

この他、敢闘は旭天鵬、勢、技能は安美錦、豪風が候補でそれぞれ選びたい気持ちは山々なのですが、あくまで当てること重視ということで、シビアに行きました。

 

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