白鵬、稀勢の里については、繰り返しになるところはかなり省略しながら書いているので、出来れば昨年九州あたりから、少なくともここ2場所分の総括を観て頂いた後、あるいは随時それを挟みながら読んで頂ければと思っています。


白鵬
前場所よりも体調は良く、内容も上向いたというのが総論なのですが、どうしても宝富士戦、碧山戦と相手にしっかり当たられた上で右が差せない展開に持ち込まれたときに生じる下半身のバタつき加減には目が行ってしまうし、暫く前から触れ続けている課題を払拭したという印象には依然届かなかった。
良かったのは魁聖戦、勢戦と中盤に組まれた相四つ相手の2番。絶対的な力量差と技術差を利して、自分から上体を力ませて寄り詰めていくのではなく、相手にある程度攻めさせながら、起きたり体勢を崩したところで逆襲。しっかり腰を落とし、じわじわと寄っていく危なげなさは今場所の白鵬に対して用いられることの多かった「(先場所の反省を踏まえ)じっくり構えて取っていた」という論評がもっとも妥当するところでしたし、いっぺんにもっていけなかった割には取組後に割と上機嫌そうにコメントを残したのは、こういった内容が本人が理想とする「横綱相撲」にも通じるところがある所以でしょうね。
ただ、この2人は崩れた先場所には対戦がなかった相手、でもって、その夏場所に「あわや」の場面を作られた豊ノ島や安美錦との対戦は今場所組まれていない。後者2人の特徴は、白鵬の中に入って、あるいは横について相撲を取ろうという意図が鮮明であること。そして、白鵬の側としても差し身の上手さもある彼ら2人を相手には、ある時期からまともに捕まえに行く作戦を放棄し、離れて取る展開が続いていた。この時に大事なのは、どういう立合いで行くにせよ、横綱が上半身だけで相手を動かすのではなく、足の運びがしっかり伴った上で相手に圧力をかけているかどうか。
そして、下半身の衰えからそういった攻めの鋭さを欠くようになった(取り口の幅が狭まったとも言えますが)ここ半年ほどの白鵬は敢えて自分からは動き過ぎないようにしつつ相手を捌く取り口(春場所後の総括で「流れの中での後の先」と名づけたものです)を見出すのですが・・・先場所分の総括でも記した通り、複数の相手に看破されて、その意図は脆くも瓦解してしまった。

何が言いたいかというと、今の白鵬にとって、簡単に右四つを作らせてくれる相四つ力士と、左四つないし二本差し、また突き押しを主体とする相手では峻別して相撲内容を観ていく必要があり、去る名古屋は純粋に相四つ力士との対戦が増えた分を差し引いて考えなければいけないということ。
かつ、相四つ以外の取り口を主とする相手できっちり背中を丸めた体勢で踏み込み、白鵬の右四つを封じるか差させても十分には利かせないような形を作ることが出来た者はきっちり苦しめたと表現出来るだけの内容を残しているだけに、この点に対して、白鵬がどう対処法を見出していけるかという点は依然未知数、不透明なままなんですよね。来る秋場所は、まともな右四つの相手が減って、(安美錦、豊ノ島は居ませんが)白鵬にとって一定の取りづらさがありそうな力士が上位に入ってくるだけに、本当の試金石はこちらなのかなと思っています。

対戦相手として、この横綱を相手に「右を差させない」というのは、実際3年前、それをやって苦しめるところまで行った力士も多かったのですが、結局は横綱が研究し尽くして、色んな立合いを駆使しながら的を絞らせず、翻弄し返していった(12年九州での松鳳山戦後に発したコメントを度々引用していますが、あの時期のことです)。その流れから43連勝なんていうことにもなりましたし、今更「右殺し」なんていうのも古びた作戦という声もあるでしょうけど、あの時期の白鵬と今では足腰の強さとそれに伴う足運びの差が大きい。今一度この作戦に徹して、倒すという以上に「苦しめる」という意識で向かっていってほしいもの。


秋場所はどうにか更新の時間がありそうですし、再度この点に絞った上での白鵬特集を組んでいければと予定しています。 


鶴竜
2場所休場明けという点を考慮すれば12勝は合格点。内容的にも左前廻し狙いの鋭い踏み込みから思った以上に前へ攻める相撲が多く、立合いからの流れが少し悪くてもすぐに修正していける速さも目立って、イメージ通りに体が動くという相撲が初日の逸ノ城戦を端緒にタタタッと続いていきましたから、本人としても気を良くして当然ですし、合口の良い相手と組まれた6~7日目あたりは貫禄たっぷりの強さを発揮してくれました。

中日の勢戦、右を差されて左上手が肩越しになったので、悪い方の肩が伸びるようになって負担がかかったのではないかと危惧しましたが、その影響が出たわけではないにせよ、後半失速気味だったのは来場所に向けての改善点となるでしょう。
現状の課題は栃煌山戦、稀勢の里戦、白鵬戦という今場所喫した3つの負けに概ね集約されていたのですが、今場所前にはある程度肌を合わせる機会も持てるだろうから、しっかりと対策を打ってほしいもの。
それに加えて、来場所は隠岐の海に嘉風と、好調ならば上記した負けパターンにハマりやすいタイプの難敵が圏内に入ってくる分楽ではないでしょうけど、消極的にならずイメージ通りの相撲が取れればそうそう星を落とすようなものではない。名古屋で掴んだ手応えと場所前の稽古で深めた自信、それらとともに充実の顔つきで初日の土俵に入っていけるようなら、2度目の賜杯も現実的な目標となりそうです。


稀勢の里
勝った相撲は概ね良かったものの、負けた内容が・・・というのは今場所に限らないですが、とりわけ痛かったのが碧山戦。この2人の対戦に関する経緯はいくども書いているので繰り返さないですが、春場所総括でも書いた通り、碧山が張り差しを出されても顔を背けず(上体が起きず)に、低くまっすぐに踏み込んで行けるようになっているのに、それを考えずに過去2度上手く行ったやり方を安易に踏襲するだけでは研究不足とされてもやむをえない。
この日も初・春とは違い、出足鈍らせることなく、左おっつけを効かせて来ますから、右足がズズッと下がって後退する悪い流れ。左を差して反撃にこそ出たものの、攻めている分碧山の反応が先手先手で捕まえきれず、また左右からおっつけたり、左手稀勢の右手を押さえて胸が合わないようにしたりと碧山も稀勢の里対策を本当によく練り込んでいた。稀勢が右を殺されたまま何も出来ずに動きを止めたところで、体を右にねじりながら引き寄せ、すかさず右喉輪で突き起こして左四つを振りほどき、左からも喉を押して、脚が揃ったところをいなしてあたりの連続技は圧巻でしたし、土俵際も、頭で当たり直し、十分に膝を曲げた姿勢で詰められては稀勢の里も残しようがありませんでした。

翻って稀勢の里からすれば、もはや「取りこぼし」では片付けられない負け方であり、ここ数場所の星取りを見れば分かる通り、とにかく春日野の3人(栃煌山、栃ノ心、碧山)の1人ないし2人に対して前半に星を落とすというケースが続いている。出稽古にも頻繁に通っている先なので、そうした作業が足りていないというわけではないのですが、それでいて相手の基本的な情報さえ押さえられていないようでは同じことは来場所以降も続いてしまう。
体調も上向いてきたであろうことが見て取れるだけに、厳しい論調も辞さずで書いていますが、綱とり、初優勝という大目標に向けて、いよいよ多くの時間は残されていない・・・という時期に立ち始めている現状、さらなる奮起が求められることは言うまでもないでしょう。


豪栄道 
左肩の影響は立ち上がりに(土俵の上での)稽古不足として現れたかなというくらいで、あまり取り口の面には生じてこなかったように見えましたし、実際連敗スタートの後は8勝2敗で勝ち越しましたから、今場所はそんなに書くこともなかったり。
夏場所総括で書いた二本差し云々については、 同記事中に「理想」として掲げたような取り口をまさに照ノ富士にストップを掛けた一番で見せてくれましたが、本来中に入っての肩や膝の使い方も上手い人なので、ああして食いついていく相撲が今後ますます増えていくことを期待したいですね。


琴奨菊
夏場所後のコメント返しで「琴奨菊はなぜか未だに若手みたいな扱われ方ですが、実際には年齢的にもコンディション的にもとうに晩年の域に達している力士ですからね・・・」と書いた通りの見方をしているので、最近の感想としては、もう「よくやってるなあ」というのが一番なんですよね。
今場所に関しても、連日必死の土俵でまさに一進一退。千穐楽は、状況的に照がここ2番のように右で張りに行かず、本来の左前廻し狙いでねじ伏せに来るというのは読んでいたんでしょうね。左を固め、一度頭で当たっておきながら左に動いて体を開き、左足を送れず、前のめりの相手を落ち着いて叩き込み。本人の「研究して廻しを取らせないように行った」というコメント通りの奇襲で最大の窮地を脱しました。
厳しい状況は続きますが、今回のカド番脱出によって、何とかかんとか地元場所を大関で迎えられる。出来る限り下半身のコンディションを整えて、後は開き直って自分の相撲に徹するだけ。もう一花咲かせてこそですし、頑張ってもらいたいですね。


照ノ富士
11勝は新大関としては合格点のスタート。大関になったからと変に受けて立つようなところもなかったですし、それが関脇以下への取りこぼしなしという結果にも繋がったのかなと。
取り口も原則として「右四つ左前廻し」の型を深めるという決意をいっそう強くした上で、随所で柔軟に従来の右で張っての左四つ狙いも併用。また、同じ右四つ狙いでも相手によって微妙に踏み込みの角度や強さ、手の使い方なども変えていますし(簡単に言えば先に右を差したいか、左上手がほしいかということですね)、こういうところがこの人の本当に良いところだなあと感じると同時に、その照ノ富士に毎回立合いで主導権を握られ、自分の当たりが出来ないでいる某大関の課題へと思いを至らせてしまう。

さすがに横綱というと、右四つにせよ、左から差しに行くにせよ、まだまだ隙自体はありますから、相手の狙いがバッチリハマってしまった際には豪栄道戦や先場所の德勝龍戦のような完敗は生じるはず(楽日に露呈したように、圧力をかけてから横に崩すと割と脚が流れやすいところもありますから、そこも研究して狙っていく力士は居るでしょう)。鶴竜の復帰で単純に越えるべき大きな壁が一つ増えたということもありますから、前場所の総括にも書いた通り、すぐにどうこうというイメージは沸かないし、大体11~12で安定した上で、来年の前半くらいにどうなっていくのかという見立ては変わりませんが、この人ならあるいは予想の上を行ってくれるやもしれません。

先場所前、今場所後と少し気になる報道もなされた体調面については、くれぐれも細心の注意をはらい、悪循環にだけは陥らないよう、大きな怪我だけはないようにと祈るだけです。
悪化させないためにも顎を引いて、先に先に攻めていく相撲を一つでも多く増やしていくこと、そして、そうした流れへと持ち込んでいく型を着実に深めていくことというのが正論ですが、なかなか理性だけで取れるものではないですからね・・・