土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2015年10月

稀勢の里編第2弾として、過去に数度記載した天敵・碧山戦の展望を時系列順に掲載しておきます。改めて、管理人がどれだけこの取組を好きかということが分かっていただけるのかなと・・・


14年名古屋場所前記載
御存知の通り、ここ2場所は碧山が電車道で大関を下しています。内容もそうですが、土俵周りの仕草もすべて含め、碧山が悠々と取っていたのが先場所。
一方の稀勢の里は右足親指のふんばりが効かない状態で必然のように敗れた初場所を経て、悪い意味で意識しまくっていましたから、観た人は分かると思いますが、これは今後も容易に苦手意識が取れそうにはないな・・・と感じました。

で、先場所分の観戦記で、「そうならないため」の方策として、実現する可能性は低いという付記を添えつつ「場所前に出稽古で捕まえに行くくらいのことはしないと・・・」なんてことを書きました。
そして・・・場所前、稀勢の里は行ったんですよね。詳しくは時事通信さんの記事を参照して欲しいですが、碧山と三番稽古をやりました(書かれてないけど、その後には胸を出しつつ、いくらか引っ張り回すようなこともしたはず)。内容的にも、やはり稽古場の土俵に上がれば稀勢の里のほうが強く、これで碧山は稀勢の里という力士に少なからず怖さを抱いたはず。むしろ大きいのはそっちだったりしますよね。

具体的な取り口の面で言えば、とにかく立合いというわけですが、相撲になっていないここ2場所は別としても、その前数度の対戦も、先ずは碧山がしっかり踏み込んで、後退した稀勢の里がその出足を左のおっつけ、右からの突き放しなどを交え、凌いでからの展開が多くなっていますから、立合いがある程度しっくり行ったとして、進化している碧山の低く重たい出足をまともに受けず、うまく散らせながら取っていく必要はありますね(去年九州の内容でもそのままなら、かなりヤバイ)。もっとも、そのあたりは直接肌を合わせた件の三番稽古で研究も進んだはず。あとは実際の相撲を観てのお楽しみですね。

15年初場所分熱中録より抜粋
長らくやっていなかった張り差しを解禁し、天敵相手に快勝。全関取レビューでも抜本的に何かを変えるというよりは対症療法的な修正だけでも十分苦手克服の手段にはなると書いたのですが、その所以を見せてくれた一番でした。立合いの低く重たい踏み込みさえ封じてしまえば、後は断然稀勢の里の方が強いわけですからね。その後も変に差しちゃうと振られるので、ハズ・おっつけでうまく攻めた冷静な取り口だったかなと。
逆にいつものように受けてきてくれるだろうと自信満々に当たって来た碧山は完全に横を向いてしまい、出足半減。そしてこれが次回以降同じ踏み込みをできなくなる端緒にもなっていきます。

15名古屋場所後総括より抜粋
(中略)夏場所総括でも書いた通り、碧山が張り差しを出されても顔を背けず(上体が起きず)に、低くまっすぐに踏み込んで行けるようになっているのに、それを考えずに過去2度上手く行ったやり方を安易に踏襲するだけでは研究不足とされてもやむをえない。
この日も初・春とは違い、出足鈍らせることなく、左おっつけを効かせて来ますから、右足がズズッと下がって後退する悪い流れ。左を差して反撃にこそ出たものの、攻めている分碧山の反応が先手先手で捕まえきれず、また左右からおっつけたり、左手稀勢の右手を押さえて胸が合わないようにしたりと碧山も稀勢の里対策を本当によく練り込んでいた。稀勢が右を殺されたまま何も出来ずに動きを止めたところで、体を右にねじりながら引き寄せ、すかさず右喉輪で突き起こして左四つを振りほどき、左からも喉を押して、脚が揃ったところをいなしてあたりの連続技は圧巻でしたし、土俵際も、頭で当たり直し、十分に膝を曲げた姿勢で詰められては稀勢の里も残しようがありませんでした。


15秋場所前記載
総括であれだけ書いて、またか・・・と思うでしょうけど、今場所の展望はしていなかったので、改めて。
(中略) 大関に踏み込む右足(親指)の負傷で重たい相手の圧力を受け切れない内容が続いていたのと、碧山が張り差しに来る想定ないし張り差しへの対策が出来ずに、出足が止まってしまうケースが多く見られていたため。

翻って現時点ではどうかというと、これも繰り返しになりますが、稀勢の里の右足は順調に回復し、碧山は張り差しへの想定および対策を十分にとれるようになりました。
・・・となると、立合いをどうすべきか自ずと答えが出るはず。すなわち25年九州以前に復し、しっかり踏み込んで出足を受け止めつつ、突いてくる手を跳ね上げて横から崩していくという流れに持ち込めむべきだろうと考えます。後は碧山がモーションをつけて立合いの呼吸を意図的に狂わせにかかるので、それに惑わされることさえなければ、圧勝することはなくとも取りこぼす相手ではないでしょう。


15秋場所熱中録より抜粋
稀勢の里の立合いは今回も張り差し。すぐに左を返して前に出る流れを作ったという点では前場所よりも良かったですが、碧山も稀勢の里が左を差しに来れば、右(正面方向)に回り込みながら、体を離していくというパターンを刻み込んでいますからね・・・
離されても構わず攻めて半周あまり、赤房近くに追い詰めますが、上半身と下半身の距離感にギャップが有りますから、後一押しが足りず、青房方向へと俵伝いに逃げられる。詰め切れなかった原因が具体的にどこでどうすれば良かったのか・・・ではなく、そもそも展開の速さに足がついていかないわけですから、こういう流れ自体に持ち込むべきではないということ。勝ちはしたものの、決して碧山への苦手意識を払拭できるような勝ち方ではなかったというのが正直な感想です。
(以降は勝負判定に関する下りのため、省略)

目前ランキング
安彦 追手風 H3年 184 149
無念の昇進見送りも、東筆頭の地位に就きましたから、今度こそ他の力士との星勘定をする必要はなく、ひたすら自分が結果を残すのみ。もう上がらなければいけない、この段階でそれ以上のことは書きません。

千代翔馬 九重 H3年 182 120
初の5枚目以内、ワンチャンスで関取の地位を射止めるか。詳しくは今場所前更新分のリンク先記事で。

大翔鵬 追手風 H6年 182 147
初の5枚目以内で勝ち越しは立派も、勝てば関取の7番目では現状の課題がハッキリと出た。こちらも今場所前に新規記事更新につき、リンク先を参照。

4佐藤 貴乃花 H8年 173 150
ライバル阿武咲同様、番付が上がるごとに相撲内容を良くしながら、あっという間に一桁の地位までやって来た。 強く当たりすぎずに角度良く踏み込んで、相手の動きに対応する上手さや落ち着きも光り、5番目の相撲で幕内経験者千代の国を難なく捌いた一番には驚かされました。もう少し馬力がついて、その上で下の構えも崩れないようになってくれば、勝手に番付も上がっていくでしょう。

白鷹山 高田川 H7年   184 166
秋は後手後手の展開で精彩を欠くも、1勝3敗の5番目で熱戦を逆転勝ちで制してから内容・結果とも上向いた。九州場所5枚目以内ではないですが、期待を込めて今場所も5位に。 

6禧勢ノ山 木瀬  S63年 172 170
海龍  出羽海 H2年 178 136
8濱口   木瀬   H元年 177 160
天空海 立浪 H2年 183 164
10栃丸 春日野 H4年 171 157
11大和富士 阿武松 S59年 187 150
12笹ノ山 木瀬  H4年 179 150
13明生 立浪 H7年 180 140
14力真 立浪 H7年 190 156
15照強 伊勢ヶ濱 H7年 169 115

再起ランキング
1希善龍 木瀬 S60年 195 157
相次ぐ怪我に続いて、秋場所前には髄膜炎に罹って場所直前まで入院。それでも後半調子を上げ、6勝まで持ってきたのだから頭が下がる。5度目の十両返り咲きへと向け、少しでも良い体調で場所に臨めることを願いたい。

2琴恵光 佐渡ヶ嶽 H3年 176 124
番付こそ停滞しているが、半身にならず、素早く懐に入り、差し手を返して揺さぶりながら相手の腰を起こす上手さが身に付いた印象で、秋場所、魁戦の勝ち味は絶品だった。新十両の頃と比べても確実に力をつけており、再十両の日は遠からず訪れるはず。

3出羽疾風 出羽海 H元年 177 123
秋は東筆頭で1点の負け越し。この人らしく連日健闘していたが、敢えて厳しい指摘をするなら、やはり大きい相手とやるとき、簡単に右を差しに行こうとする立ち合いは拙いと言わざるを得ず、挟み付けられたり、胸を合わせて振り回されたりという結果に至ったのは自然の成り行きだった。負け方が変わってきたときが更なる成長への機微とも言えるのかも。

4阿炎 錣山 H6年 187 128
精一杯の土俵ぶりで連続十両を維持していたが、相撲を憶えられ、地位を守るのに汲々としていたのも確か。1年前に、「まだまだまともな引きが多く、突きも師匠の回転数には程遠いなど攻めのリズムが乏しい」と書いた欠点は解消されておらず、言うなれば、滅茶苦茶見極めやすいフォームから、まっすぐとフォークのみを投げ分けているような形。素質の高さは誰もが認める「ドラ1」級。プロの洗礼を浴び、ここからが本当の力をつけていく時期だろう。

5千代の国 九重 H2年 184 140
相撲の性質自体に大きな変化はないものの、兎にも角にも三段目まで落とした地位を5枚目以内まで戻したことに敬意を表したい。ここまで還ってきたからこそ、焦らず先を見据え、万全のコンディション作りに徹して欲しい。

6肥後ノ城 木瀬 S59年 180 143
7翔天狼 藤島 S57年 189 147
8栃飛龍 春日野 S62年 178 146 
9竜電 高田川 H2年 189 149
10髙立 木瀬 H4年 180 205 

海龍元生 出身:和歌山 生年:平成2年(早生まれ) 所属:出羽海 身長:178センチ 体重:136キロ

24年3月には幕下優勝、25年の7月・9月には続けて、十両まであと1勝にまで迫ったことのある実力者ですが、何故かこれまで纏まった記事を書く機会がなかったので、 久々の5枚目以内復帰を機に・・・ということで。


<取り口> 
もろ手突きからの突き放しと機を見ての引き・叩きが持ち味という昨今の土俵では少なからず存在するタイプの力士(首の怪我があって、 頭から行けないという事情があったように記憶しています)。
秋場所の中継を観ていて、中立親方から「左を使うように」という指導を受けているという 稽古場の情報が入ったので具体的に確認してみたところ、名古屋場所初日の宝龍山戦では、確かに右喉輪で押し上げた時の左を固めて肘で押し上げるようにしているのですが、ここはセオリーからすればハズに当てていきたいところで、他にも左が遊んで、正面からの右喉輪で上体が伸び上がるような恰好が散見される。
基本的には右からの喉輪で押し上げていきたい人だろうと思うのですが、それ一本を頼りとするにしては体力面が不十分で、右で喉輪を使うなら、やはり左はおっつけかハズか、ともかく相手の斜めについて横から崩すような展開を増やしたいし、使い切れないのだとすれば、逆に左を喉輪、右でおっつけという形の方がハマるかもしれません。

また、全般に気になるのが、二の矢以降で今ひとつ自分の型を決めきれていないところ。突きに徹するなら、相手に手繰られたりしないためにはもう少し手数を出して一つ一つの回転も速くしていきたいし、コンビネーションで行くにせよ、秋場所の朝弁慶戦のように、もろ手で少し手を出しておきつつ、すぐに右へずれるようなこともするのですが、叩きを交えるのならば、その日の解説を務めていた元部屋付きの稲川さんも話していた通り、もう少し右からの攻めを利かせつつ、相手の足が揃うところを見透かして叩きに行く方が良いと思うので、そうした勝負勘(叩きを出すタイミング)という点がどうなのか。
さらには、流れの中で左→右と差そうとする相撲も何番かあって、相手に合わせながら上手く相撲を取っているという評価も可能ですが、もう一歩今の地位を抜け切れないのもその辺りなのかな・・・という感は拭えない。
過去に2度ほど惜しいチャンスを逸したりしたことについては、精神面もあったでしょうけど、十両数場所というのではなく、あくまで幕内を目指すにおいては、技術的にもまだまだ改善の余地が大きく、体つきにしてももう一回り分厚くなれるはず。逆に言えば、年齢的にも中堅の域にさしかかってきたとはいえ、まだまだ秘めたる能力を生かし切っていないと思うし、心技体すべてにおいてそれだけ伸びる余地も多く残された力士ではないかと思っていかます。


出羽疾風に新十両で先を越され、御嶽海は入門からわずか4場所で一気の新入幕を果たすなど、新たな刺激材料にも事欠かない環境下、とりわけ同じ押し相撲で低い姿勢からの出足速攻を持ち味とする御嶽海の存在は、稽古相手という意味でも何よりの糧となりますし、おあつらえ向きにというか、御嶽海という力士は、右(海龍から見て左)から攻められると弱いところがありますから、「左の使い方」という課題を克服するにおいて最高の実験台にもなってくれる。これを生かさない手はないと猛稽古に励み、新生出羽海部屋の隆盛に一役買うような輝きを放てるか、いずれにせよ、この1年が勝負の年となるでしょう。

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