土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2017年09月

この日は幕下の相撲から。

幕下
中大卒の一山本(二所ノ関)は今年初場所が初土俵、7勝・6勝・6勝で早くも幕下へ番付を上げてきました。
ここ数年の学生出身力士は、一時期よりも半端な相撲を取る力士が随分減った印象があり、この人も186センチの長身を生かした突っ張りに徹しているのが何よりも良いところ。
この日は相手琴福寿野の立合いも不明瞭ではありましたが、三点突きの要領で早く当たって先手、数発突いてから右喉輪で向正面へと攻め込まんとする際、足が揃い加減になったところをいなされたので多少泳ぎましたが、体勢の立て直し早く、左足をサッと相手の動いた方(白房側)に運んで左おっつけ気味に体を寄せたので難なく押し出すことが出来ました。


続いてデビュー1年半、幕下は通算5場所目となるモンゴル出身の朝日龍(朝日山)。春・名古屋と20枚目台で負け越し、やや上位近辺の壁に当たっているところですが、そろそろ15枚目以内進出に向けてのキッカケを掴みたいところ。
この日対戦する大元も、しばらく悩まされていた下半身の故障が癒えてここのところ再上昇ムード、年初の有望力士ランキングにも掲載した有望株ゆえ、2連勝同士の対決は個人的にも要注目のカードでした。

立ち合い、朝日龍はかます立合いも持っていますが、この日はもろ手で相手の当たりを止めんとする狙い。距離を作ってから低く当たり直して左前廻しを狙うような格好、これを果たせずも前傾を崩さず積極的に突いていく。大元もこれに呼応し突き押しの応酬となりますが、朝日龍は落ち着いて対応し、常に相手の内側から手を出し、下から下から手を使って相手の嫌がる攻めに徹したのが素晴らしかった。守るばかりではなく自分からもよく攻めていますから、大元は少し間隔が空いたところでたまらず引いて呼び込んでしまいました。
朝日龍、やや足が流れるようにはなったものの、勝機逃さじとばかり正面青房寄りへと急襲、右で引っ張り込み、左は相手の左大腿部を外側から抱え込むようにして挟み付けると、バランスを崩した大元は尻から土俵に落ち、押し倒しの決着。
突っ張り合いになったところでカッとなって上から手が出てしまうような荒っぽさもなく、我慢して基本に忠実な相撲を取り切った朝日龍の成長を感じる一番。こういう相撲を取っていれば、大きな怪我をする虞も小さくなってきますよね。

三段目
本日の3~5年後が楽しみなホープさん、1人目は今場所新三段目昇進のタイミングに合わせ、本名の小林から改名した海舟(武蔵川)。相撲経験なく入門した、178センチ82キロというムキムキの筋肉質はこのあたりの土俵でひときわ目を引きます。
初土俵からはもう2年近く経っているということもあって、瞬発力を生かした鋭い踏み込みで素早く左前廻しを引き、近づいた右も取っての拝み寄りという目指すべき取り口もだいぶ定まってきたよう。この日は幕下経験者善富士を相手にそういう相撲をほぼ完璧に取り切って、最高位の土俵における初白星を上げました。
多少の身長差はあれど、デビュー当初の千代の富士ってこういう体つきだったんじゃないかなとも思わせる逸材であることは間違いのないところ。さらなる研鑽を重ねた先の3~5年後、体重が100キロ前後まで増えてきた頃に開花のときが訪れるかもしれません。

続いては、年初の「相撲」でも部屋付きの不知火親方からプッシュされていた阿武松部屋の勇磨
デビューから3年半を迎える叩き上げ力士で、まだ序二段の頃に生観戦して目に留まったのを懐かしく思い出しますが、2年以上経ってまず体が大きくなりましたね(デビュー当初は174センチ86キロ、現在は176センチ107キロ)。この日の隠岐の岩戦でもよく発揮された回転の良い突っ張り・身のこなしの機敏さといった気風の良さは、どことなくかつて錣山部屋にいた大地を思い出したりもするのですが、立合いからの圧力、おっつける際の足の運び方など全般の相撲力構築はまだまだ発展途上といった感。
ここ1年ほど三段目下位で足踏みが続いていますが、いかに資質が高くとも、ほとんど経験がないまま入ってきた叩き上げの力士にとっては、どうしても一つの壁にぶち当たる地位であり、この時期をいかに辛抱しながら心技体を磨き上げていくかに尽きます。3年後、幕下あるいはそれ以上の地位で名前を見つけられる日を楽しみにしたいですね。


幕下
学生出身の新星若隆景×叩き上げ随一のホープ貴公俊がこの日の好取組。
若隆景は、突き上げんとする貴公俊の攻めを下から跳ね上げ跳ね上げしながら間合いを詰めると、浅く右を覗かせるやすぐさま肩透かしを引いて泳がせ、赤房方向へ猛攻!
ただ、モロハズの構えのまま出たかったであろうところ、まともに差し手が入ってしまったため、伸び上がり加減で寄り方もまっすぐ、貴公俊に右からの小手投げを許す空間が出来てしまった。
正直喰ったかな?と思いましたが、何と何と左太ももが土俵に着きそうになりながらも踏ん張り、掬い投げを打ち返してしまうのだから、その強靭な下半身に驚きました。
決着の形だけ見れば、あの「髷差」に泣いた貴ノ花×高見山をも想起させるような投げの打ち合い、足取り名人とも呼ばれた大波三兄弟のお爺さん(元若葉山)もそれはそれは身体能力の高い人だったようですが、その血統は元幕下の父を経て、脈々と今に受け継がれています。 

幕内
豪栄道 9-1
1年前の再現が徐々に現実味を帯びてきました。嘉風、栃ノ心といった苦手相手に変化技を仕掛けたのは去年の春と同様。星が整うことにより余裕も生まれ始め、千代大龍戦・阿武咲戦も表面上下がったようには見えるものの、その実、余裕をもって相手の攻勢を捌いたという内容、正代戦あたりからは昨年秋場所来の鋭い立合い~出足をつけた二の矢の攻めを繰り出せるようになって明日からの終盤を迎えるというところですね。
最近はあまり用いていなかった張り差しで出る立合いも数番あり、(筆者は賛成しないですが)対戦相手を選んで意表をつける格好になってはいますし、張り差しに出るやいなや次の足がスンナリ出て、無理なく先手を取る展開を作ることが出来ています。張り差しを使うことで翌日以降自らの相撲を崩すということもなく、自然な使い分けが効いているのかなと(取り口の話題で付け加えるなら、これほどおっつけが厳しい豪栄道というのも久々ではないでしょうか。去年もそうなのですが、11番勝った4年前の秋にも近い感覚があります)。

残り5日間、有利な状況であることに疑いはありませんが、優勝争いの先頭に立つ力士を相手にしての一発を秘める御嶽海、合口があまり好いほうではなく、やはり大物喰いの側面もある松鳳山らとの対戦が残っており、まだまだ油断は禁物。特に松鳳山戦はなんとなく大きなウエイトを占める一番になりそうな気がしています。
ともあれ、本人も話すとおり、今は自分が出来ることに集中して一日一番を取り切るのみ。2度目の賜杯はその先に自ずと浮かび上がってくる筈ですからね。


千代大龍 8-2
いやはや今日の栃ノ心戦は驚きました。しかし、改めて190キロという体重のなせる重さと破壊力、そしてそれを持て余すことなく活用している今場所の好調ぶりを証明する一番にもなった。元々四つ相撲における上手さ・勘の良さも持っている人なので、相手が引きつけに来るタイミングで引きつけ返して吊り上げる様などはなかなかのものではありました。
本来の突いて出る取り口においても、体に厚みが戻り、力み過ぎずとも相手に圧力が加わる面白さを見出したかのようで、だからこそ二の矢の突き放しもスムーズ。何と言っても今場所一番楽しく相撲が取れている力士なので、この進撃がどこまで続くか、元来勝ち越してからホッとしてしまう傾向はあるのですが、今場所ばかりは例外でしょう。


日馬富士 6-4
最近としては絶好調という表現が大げさにならない出来であった昨年秋とは一転、本当に苦しい土俵。足が出ず、腰も高く、苦し紛れの張り手にも相手はまるで動ぜず、完全に相手の距離感に持ち込まれ、余裕を持ってのはたき込みを喰った今日の貴景勝戦で優勝の芽もかなり遠ざかりましたから、精神的にも相当しんどくなったと思いますが、もう一度全身を奮い立たせ、残り5日、目一杯の土俵を見せてもらいたい。
 

嘉風 6-4
序盤の4連敗から一転、猛然と調子を上げてきたのがこの人。首の故障があると言いながらも、立合いは当たり前のようにかましていくし、左を差せばサッと上体を沈め首を相手の脇に入れていく様は圧巻というだけでは到底表現し尽くせない物凄さがあります。
前半はいつもと比べれば一つ一つの動きが一拍遅く、勝ち相撲であっても勝負が長引く場合もあったのが、豪栄道ではないですが勝ち続けるごとスピードに乗り始めましたし、こうなると豪栄道戦、千代大龍戦が終わっているのを惜しく感じますね。
とはいえ、まだ日馬富士戦、御嶽海戦などもあり、先場所小結で9番勝っている嘉風としては、残り5日、二桁のラインに乗せられるかどうか、重要な局面に来ているのは間違いないでしょう。


阿武咲 7-3
新入幕以降の阿武咲を観ていて思うのは、新十両当初の取り方‐出足が良いのは前提ながら、危機察知能力が高いというのか、勘が良く、立ち回りの上手さでいなしたり引いたりして勝機を掴んでいた‐に戻ったような印象を受けるんですよね。
それ以降十両で停滞していたときは、勝ち切れない理由を圧力不足に求めたのかどうか、押しまくって出ることにこだわりすぎるあまり力任せの伸び上がるような相撲が多く、それが故障を産んで幕下落ちにも繋がったりもしたのだと思いますが、再度十両へ戻って大勝ちしたあたりから、体勢は出来るだけ低く、起きたと思えば沈め直して丸い体を生かすよう下から下から圧力を加えていく形に徹し始めると、落ち着いて相手の体勢をよく視られることで勝負の勘所を見極める従来のセンスを思い出したのか、上記のような身のこなしの良さも出せるようになって、新入幕以後の活躍へと結びついていった。
逆に言えば、まだまだ本物の押す力のみを根拠として勝っているようには見えないので、このまま一気に番付を駆け上がるのかと言えば…
まあ、それはいくぶん気の早い話でした。とりあえずは今場所残り5番、もう1つに迫った勝ち越しを、三役・三賞を、さらに史上初となる新入幕以降3場所連続二桁の快挙に向けて…と喧伝したくなるところですが、そういう余分なことは考えすぎず、これまで通り思い切り良い相撲で土俵を縦横動きまわってもらいたいと願っています。


…という5人で終わっても良いのですが、もう一人新入幕の朝乃山についても一言だけ。立合いから突っ張りが出るようになった。これは本当に大きいですよ。正直、デビュー数場所観たときは、失礼ながらこれほど器用に、かつ長く築いてきた自身の取り口と真摯に向き合い、早期の改善を果たせるタイプの力士だとは想像していませんでしたが、完全なる過小評価でした。詳しくは九州場所後の全関取レビューあたりに回しますが、この人はその将来に大きな望みを託してしかるべき存在となっていきそうですね。

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