土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

2018年02月

大栄翔勇人 出身:埼玉 生年:平成5年 所属:追手風 身長:182センチ 体重:160キロ

<立合い分析>
額で当たりながらのもろ手突きから、右の突き放しを効かせて相手を仰け反らせることで先手を取らんとするのが基本。当たり合った後に上体が起きて顎が上がり、ふたつ目の攻めを出すときに両足が揃ったままで突きにいってしまうような癖は、当たりそのものを強化することで補えるようにはなっているが、やはりリズムが途切れがちで取り口全体のバタつき加減にも直結する部分だけに、修正できるに越したことはないか。
30年初朝乃山戦のように、差して来る相手に対し、低く出て片方ハズ・もう一方をおっつけにかかりながら、前傾を崩さぬまま持ち上げるような押しで一気に運んでいくような馬力・上手さもあるだけに、当たりの強さ・鋭さよりも角度を重視していくことがキッカケになるのかも。
この他、小さい人や変わってくるような相手には上体を起こしながらもろ手を繰り出す立合いもあり、もろ手で突いてくる人には、はね上げるようにして応じる。 


踏み込み足:左
手つき:先に両手を下ろして待ちたいタイプ。早く仕切り、概ね相手が腰を割らんするタイミングで両手を下ろしていく。それゆえ腰を割ってからが著しく長いような相手に焦らされがちではある。
呼吸:先に両手を下ろしたい人ゆえに、立ち上がってから腰を割るまでの動きを先走るきらいはあるが、上記のとおり手を下ろすタイミングは一定に近く、相手が立ちづらそうにしている感は乏しい。


<攻防分析>
伸びのある左右の突き放し、回転を効かせた突っ張り、片方を喉輪・もう片方でハズやおっつけにかかりながらの押しも強く、いつの間にやら体重が160キロにまで達したことにより、一発一発の重みや型にはまった際の馬力も向上。いなしを交えながら崩していく際の動きも小気味良く、体重の増加で身のこなしが鈍ったというようなこともない。
課題は、立合いの項でも触れた通り、突っ張っていくときの足運びで、足幅が狭く、爪先立つようにして出ることで横への動きに弱く、足が返ってガクッと落ちるような場面も見られるので故障のリスクもある。また腰が伸びた体勢のまま突くことで差されやすくもなってしまう。

上体と足のバランスが乱れがちなバタ足気味の突き押しという点では、北勝海もそうだが、現在の体型に照らせば貴闘力にも近いのではないだろうか。
貴闘力といえば張り手が代名詞でもあり、相手の動きを止めて間合いを整え、自分のペースへと持ち込むため、あるいは小さく張って中に飛び込むというコンビネーションも見られた。北勝海の場合には相手の横につき、前廻しを引いて食い下がる技能があったわけで、大栄翔にも欠点を補い、自分有利の形勢を作るべく何か一つでもこれといった技を身につけてもらいたい。

根は左四つで、当初は組んだ際の意外な粘り強さも買われたが、上手を浅く引いて食い下がるタイプの四つ身ではないだけに体を入れ替えるような逆転技を覚えられてしまっては苦しい。現在は引っ張りこまれた際の弱点のほうが目立っている。


<平成30年の見どころ>
角界随一の稽古量を誇ると評判の努力家。欠点はあっても確かな土台のもとに築き上げた押しの出足・圧力は確実に向上している。決して目立つ方ではないものの、その熱心な姿勢を買う親方衆は多く、玄人受けする好漢と言えるだろう。
真面目すぎる性格が影響しているのかツラ相撲の傾向が強いことで実力以上に星が上がらないようなところもあるが、そろそろコンスタントに幕内中どころ以上に定着してしかるべき地力の持ち主だ。

輝大士 出身:石川 生年:平成6年 所属:高田川 身長:193センチ 体重:163キロ

<立合い分析>
長身で腰高の体型ながらも額でかまし、右で喉輪もしくは肩や胸のあたりを突き、左はハズ或いはおっつけにかかる構えで突き起こさんとするのが基本。まだまだ発展途上ではあるが、形よく当たって突き放しの手が伸びたときは、時折でも眼を見張るような迫力を示すようになってきた。30年初場所の蒼国来戦は代表作だ。
ただ、意外に(と言ってはなんだが)戦術的柔軟性は高く、左で突き・右を固めるようにして当たる左四つ対策も用いるし、小兵相手にはもろ手で出たり、体当たり加減に弾いてみたり。使い分け自体はまずまず効いているので、一つに絞る必要があるとは思わないし、現状のままそれぞれを伸ばしていけば良いのではないか。


踏み込み足:単純に立ち遅れた(∴どちらとも判じ難い)ような場合も少なくないが、それを除いても左右が半々くらい。例えば右差しの相手に左おっつけを効かせたいから左で踏み込む…など、個別の取組においては意図が把握できるものもあるが、同じような取り口に思える別の相手に逆の足から出たりするので、イマイチ分からないというのが正直なところ。

手つき
:相手に先に手を着かせてから自分が手をついていきたいタイプだが、相手が遅い場合は自分から先に左手を下ろしていく。ただ、どちらの場合にも右手を下ろさずに立つのが問題であった。
30年初場所ではこの点を改善し、ある程度相手との呼吸を合わせつつ先に両手を下ろして待つスタイルに変更。しかし負けが込んだところで手つきの位置を変えるなどあまり纏まっていない感も。。以前から手つきの方法は頻繁に変えており、迷いが伺える。
こういう体型の人なら、定石としては上から見たときに背中がぐうっと伸びて、長方形に見えるような仕切り方が良いとは言われるが、あくまで本人がより良い形を見出し、固めていくことが大前提。比較的タイプが似ている玉鷲にしても、30歳を大きく上回ってから最適な手つきの感覚を掴んで今の活躍に繋げているのだから、そう簡単なミッションではなさそうだが、出世を考えれば早ければ早いほど良いのも確かである。

呼吸
:竜電と同様、腰を割りながら小刻みに揺れる動作が散見される。兄弟子とは違い、一応静止してから立つようにはしているので大きな問題ではないが、悪い方向に進まないことを願いたい。



<攻防分析>
正攻法の突き押しで前に前に出る相撲を心がけ、愚直に貫く姿勢は立派。
ただ、どうしても腰高で前後左右への動きに融通が効きづらいため、動きの速い相手には回り込まわれて主導権を失い、出足のある突き押し相撲を取る人には当たり負け・低さ負けして腰が浮いたところを突かれ、幕内上位の地力を有するような体格に優れた四つ相撲の相手には、ガシっと受け止められると攻めきれずに組み止められてしまう場面が見られる。
それらすべての敗因を克服するにおいて、(まさに玉鷲がそうであったように)地道に当たりの強度及び確実性の向上を図るべきであることは自明だが、両立しうる武器として、その差し身の良さを生かす方向性は採りうるだろう。
この人の場合、長身の力士にありがちな定位置で反るようにしてもろ差しを狙うものではなく、突き放して前に出る流れの中、小さな動きで器用に左右の腕を潜りこませられる長所があり、腕の返し・突きつけも良い。この体で相手の中に入ってしまえば簡単に相手を自分の高さに引き上げられるので、窮屈に自分の体を屈めていくよりは合理的であると考える識者も多いようだ。

長身でスケールの大きさと差し身の良さをそれなりに両立させた先駆者としては双羽黒がいるが、彼は器用さという側面もありながら、何と言っても右四つ左上手でがっぷりになれば、ときに千代の富士をも凌駕する力強さがあった。輝も30年初場所、右四つの新鋭朝乃山と堂々渡り合い、左からの強烈な上手投げに仕留めた一番にはなかなかの凄みを感じさせたが、全般にはまだまだ迫力不足。これからも同世代の有望株を相手に圧倒するような勝ち味をドンドンと増やしてほしいものである。


<平成30年の見どころ>
28年は新入幕に始まり、返り入幕からその地位を固め、 29年は幕内定着を不動のものとしつつ、上位初挑戦の機会も作ってみせた。大器晩成の逸材、物凄い速さではないにせよ、順調に出世の階段を歩んでいるのは間違いないだろう。
年男となる30年の目標はズバリ「三役昇進」。遅れてきた兄弟子、物凄い勢いで追い上げる弟弟子など、活気ある部屋の環境にも好影響を受け、さあ、年6場所の間にどれだけ強くなるか。
 

千代翔馬富士男 出身:モンゴル 生年:平成3年 所属:九重 身長:183センチ 体重:136キロ

<立合い分析>
左足から鋭く踏み込み、額で当たりつつ左で胸のあたりを突くようにしながら右で前廻しを引くのが理想。
相手の得意四つなどに応じて左で前廻しを探るオプション、或いは前哨戦で突き起こしてから組みつきにかかることもできる。
他にも、張り差し(右で張って左差し狙いと右で張って右上手を取りに行くの両方あるが、とりあえず纏める)、かち上げ(左四つですが、右でかち上げることもある)、左で突きつつ当たると見せて右へ飛び上手を探る変化技など飛び道具も多彩。
29年は左膝・両足首など下半身の故障が目立ち、立合い低く出ようとしても頭だけが下がっている状態ですぐに腰が浮き、食い下がるつもりが簡単に引っ張り込まれるような場面も多く見られた。それゆえ駆け引きやケレンに勝機を見出さざるを得ず、手つきや呼吸具合に乱れが生じることも。


踏み込み足:左足が基本も、狙いによっては右で踏み込むケースもあり、(コンディションの問題も含め)踏み込み具合にも差異がある。原則論としては、なるべく固められるに越したことはないのだが…
手つき:相手が手をつくのを待ってからサッと両手を下ろしていく。手つき不十分の場合も散見
呼吸:立ち上がってから腰を割るまで・腰を割ってから手を下ろすまでの両方で相手よりも一拍後に動きたいタイプで、とりわけ手つきの局面においては自分の呼吸に固執する傾向が著しいため、不成立となるケースが多い。
 


<攻防分析>
両前廻しを引きつけての寄り身と、右上手・左下手を主体とした投げの強さが最大の持ち味。上体が起きてしまうと体がない分、突き押しの相手に胸を合わせても攻めあぐねることが多く、 強引な攻めで墓穴を掘ってしまうのは残念。やはり、頭をつけて相撲を取ることに徹して欲しい。
また、廻しを取れないときに右へ右へと回っていく動き、左を差した体勢で右からのひねりを入れながら左で振る動きは覚えられ、付け入られやすくなっている。まともに呼びこむところを攻められては、また足首に負担をかけてしまう悪循環になりつつあり、新入幕から二桁場所在位が近づく現状、小さくない壁に当たっている印象だ。


<平成30年の見どころ>
稽古で上がってきた力士が、両足首や右手首の故障など再三の怪我に泣いて思うように体を動かせないのでは苦しい。相撲を覚えられたという以外に、稽古量を十分に積めないことによる勘の鈍りが最近の停滞に繋がっているのだろう。
いずれにせよ、コンディション不良に喘ぎ雑な相撲を取りがちな状況を一刻も早く脱さねばならない。亡くなった先代師匠に昨年限りで土俵を去った先輩横綱…何よりの見本・目標となる人たちから受けてきた薫陶を省みて、怪我のないような体と相撲を作り上げてもらいたい。

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