土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category: 力士別分析 ま行

夢道鵬(大嶽・22歳・186㌢/136㌔・西12)
幕下15枚目以内で取る機会も増えてきた納谷兄弟の末っ子。体つきは違うが、顔つきは兄弟の中でもっとも父・貴闘力に近く、中でも土俵上で相手を睨みつける際の表情はそっくりだ。

三兄の王鵬同様、高校相撲を経てのデビューから1年半で幕下上位近辺まで上がるも、その後は右肩の怪我などもあって足踏み。5年秋場所、およそ4年で初の15枚目以内進出を果たした。2場所で跳ね返されるも、6年初場所は西25枚目で5番勝ってすぐに復帰。春場所の番付は自己最高位を1枚更新する西12枚目となった。

立ち合いガツンと当たって相手と間隔を取り、何度も頭で当たり直しながら徐々に優勢を築いていく突き押し得意。動きやすい体型で、土俵を円く使いながら引き足早く相手を捌く相撲も見られる。
四つ具合は一応左四つ得意だが、左で廻しを取れば強いタイプゆえ、6年初場所は左半身からの下手投げのみならず、左上手を引いてからの寄りや投げでも2番を稼いでいる。

課題は立ち合い。兄・王鵬のような「下から、斜め45度(by九重親方)」ではなく、上から下へ当たってしまうので、出足がつかず攻めが途切れがちとなってしまうので、下から入ってくる相手にスパッと差されたり、中から押されたり、左足の遅れを突いていなされたりする負け方が目立つ。
流れの中では下から掬うように使って中に入り込んでいく上手さもあるだけに、その辺りを効率良く生かす相撲があっても・・・という気もするが、いずれにしても立ち合いの強化・改良が目下最大のテーマであることに変わりはないはず。

高校の同学年が大卒で入門してくる今年は、とりわけ気合が入る一年だろう。ライバルの存在も刺激に成長の速度を早めたい。




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翠富士一成 生年:平成8年 出身:静岡 所属:伊勢ヶ濱 身長:174㌢ 体重:116㌔ 

<立ち合い分析>
NHK『大相撲どすこい研』(第18回)における本人のコメントをもとにすれば、「思い切り当たるときは右足から」、「胸で当たるときは左足から」とのことで、実際の取組を見てもこの2パターンが多い。
より具体的に記すと、前者は右→左と小刻みに足を送りつつ頭でかましていく形、後者は右を差したり、相手の突きをあてがうようにして立つ場合に用いることが多い。後者は本人の体を考えると随分大きな立ち合いに感じるが、手と腰を使って持ち上げるような独特の技術でカバーしている。

上記2パターンの裏返し、すなわち左→右と小刻みに足を出していく形と、右足から一歩踏み込んでいく形もあり、前者は踏み込んで右を差したい場合、後者はひとまず相手を止めたい場合などに用いる。
両足跳びのバリエーションも豊富で、定位置でぴょんと跳ねておっつけをハメようとすることもあれば、踏み込みながら跳ねることも、どちらかの足を前にした形で跳ねていくこともある。

他にも、おっつけたい側へずれ気味に出たり、前廻しを探ったり、手を出してみたり、下から手を出すように張ってみたり、照ノ富士ばりの手繰りを狙ったりと書ききれないほど種類は多い。
変化については、相手のもろ手突きを見越して、下がりながらその手を払い落とそうとする仕掛けが目立つ。


踏み込み足:<立ち合い分析>の項を参照
手着き:先に両手を着いて待つのが前提。後から着く場合はサンプルが少なすぎて判然としないが、サッと両手を着く場合と、右→左と下ろしていく場合があった。
呼吸:かつての雅山のように早すぎる仕切り。時間前の段階から相手よりも先に先にと進め、時間いっぱいでも、相手がまだ背中を向けている段階で塩を撒き、さっさと土俵中央に入ってしまうことすら。腰を割るのも手を着くのもかなり早く、相手が腰を割ろうとし始めているときには、もう両手を着いて待っている場合など、相手も合わせづらいだろうし、自分も焦らされかねない。
師匠も6年初場所の解説でこの点に言及して「しっかり合わせなければいけない」と述べていたが、なぜか遅い場合と比べて指弾されにくい傾向があるのは釈然としないところ。審判部ではどのような扱いなのだろう。



<攻防分析>

十八番の肩透かしを覚えられて、捻り、巻き、内無双といった反対側の動きが上達。
また、差し手を意識させつつ逆から巻き替えたり、差し手を抜いて反対側の腰に食いつくなど、相手の狙いを一つに絞らせず、腰を落ち着けないためのアイデアは多岐にわたる。
肩透かし以外に目を向けさせることができた所以か、5年後半以降はまた肩透かしが増加。差し手が覗くや否や左右どちらからでも打ち付けられる技能はそのままに、細かく動いて相手との間隔を広げたり、前哨戦で突っ張って相手が面倒と引っ張り込みにかかるハナを狙ったり、肩透かしに至るまでのテクニックも向上している。

食いついてからの下手投げ・掬い投げも得意の一つ。反対側の手の引き込み方、相手に足の置き場をなくすような足の踏み込み方、下に打ち付けるような投げ方などに上手さを感じ、切り返し方向への意識付けも利用している。

とはいえ、上位定着・三役昇進を狙うにあたり、本人がもっとも意識するのは何と言っても基本の押しの威力向上。肩透かしもハズで押し上げ、十分に圧力をかけたところから浅く差し手を覗かせ、流れるように決めるのが最良だし、理想は肩透かしに頼るまでもなく押し切る、5年九州・平戸海戦のような相撲だろう。そんな勝ち方を毎日できるはずもないが、割合を増やして相手の脳内にどれだけ刷り込めるか。
現状はどちらかと言えば受けの相撲。その受け、とりわけ突いてくる手を両側から挟みつける場合などには、大型力士かのような堅牢さを感じるが、上位者にとっての怖さになるかといえば首をひねらざるを得ないところ。
ちょうど取り頃の時期を迎え、もう一段の成長を果たせるか。今後を楽しみに見ていきたい。





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昨日の分量は何かの間違いです(笑)長くなりすぎて幕下の記事を短めの2番しか書けなかったじゃないか。今日はもっと読みやすいサイズで纏めて、後の更新に響かないようにしたいなと思います(たぶん、きっと・・・)


腰から下を落とす
新田一郎『相撲 その歴史と技法』という本に、押しに対する防御策として砂袋の喩えが登場します。
「中身の半分抜けた砂袋が、持つ者の手から下にズレ落ちていくようにすると、相手はこちらを制御しにくくなる」
つまり、上体の力を抜いて腰から下を落とし、相手の力を吸収するような具合。御嶽海の相撲にはそうした安定感が具わっています。

逸ノ城の突進を柔らかく受け流しながら引きに乗じて反撃に出た初日、見ながら立って宇良の当たりを下半身で受け止めた2日目、「(左の前廻しは)下がりですが下がりません」の実況(吉田アナ)にクスッとしながらも、下がりが抜けた反動と右からのあてがいを合わせるようにして大栄翔を這わせる安定性に舌を巻いた3日目と出だし順調。
4日目はやや立ち合いの呼吸が乱れたように見え、上半身に力が入ってまともに引きましたが、下がりながら下半身を落とし込み、片足前の安定姿勢で付け入ろうとする隆の勝の押しを受け止めつつ、一つ前へ仕掛け空間を確保してからの叩き込み(要領としては突き落としに近い)なので、見た目よりは余裕があったはず。
7日目、先場所敗れている阿武咲戦でも、左右のあてがいで阿武咲に十分腕を伸ばさせず、どしっと構え直して、よく視ながら先場所とは反対に引き落としで相手を沈めました。

このように高い守備性能で上位者らしい貫禄を示す一方、「初日からエンジンをかけていくのではなく、徐々にエンジンをかけていく(大相撲がっぷり総見令和4年3月放送分より)」という本人のコメント通り、6日目明生・中日豊昇龍戦では、うるさい相手を電車道で片付ける攻撃性の高さも発揮し始め、いよいよギアチェンジの段階に進み始めたでしょうか。

5日目の霧馬山戦は、過去立ち合いで変化やもろ手突きなど色々と仕掛けられている分考えすぎたのか、簡単に右四つに組んでしまい、苦杯を喫しましたが、全体としては非常に充実した前半戦、連覇への視界も十分に開けていると言えるでしょう。
新大関といえば、とかく終盤の失速が論われやすいもの。その点、千秋楽に向けてピーキングに自信を見出しつつある御嶽海はどうか。答えは明日からの後半戦に委ねられます。




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