土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category: 力士別分析 さ行

正代直也 出身:熊本 生年:平成3年 所属:時津風 身長:184センチ 体重:168キロ

平成30年度版はこちら

※なかなか余裕がなく書きかけの状態が続き、この時期の公開となってしまいましたが、中身としては新大関昇進時に合わせたものとなっています。昇進後2場所のことにはあまり言及していない点をご了承ください。


<立合い分析>
まともに胸を出し、体当たり気味に出ていく腰高の立合い自体に変化はなく(多少アゴを引けるようになったことと、その場で伸び上がるようにして受ける立合いが現れなくなったことくらい)、地道な稽古・トレーニングの成果により、単純に強み(出力)が増したという表現を採るよりほかないが、いずれにせよ立合いで勝り、立合いからの流れで取れるようになったことが地力及び番付面の大幅向上成りし要因である。

従来は、まず上で当たって調節してから下が追いついてくるというイメージで、どうしても左を差して相手を起こすまでの間に一手間がかかる分、その隙を突いて、おっつけるなり極めるなり突き放すなりの反撃に出られていたが、最近は踏み込みの鋭さによって相手を壊し(荒磯親方的表現)、差し手をこじ開ける形に持ち込めているので、左からの攻めに移るのが早く、相手の腰を崩して生まれた隙間にギャップなく自分の腰を吸い付かせていくスムーズな攻め筋を実現。
上下が寸断されず連動して働くことが立合いの強化のみならず、二の矢でのスムーズな攻勢にも結びついている。


踏み込み足:左足 
手つき:両手を下ろして相手を待つ場合と、後から腰を割ってサッと両手を下ろしていく場合とがある。
呼吸:大関になったが、上位者らしく相手に譲らせるのではなく、相手の立ち方に応じて先に手を着くか後で腰を割るかを使い分けており、相変わらず人が良い。
似た傾向にある朝乃山の場合は、それでも先に手を着くのを原則としているが、正代の場合、先と後のどちらが立ちやすいのかさえ判然としないところがある。



☆立合い技一覧
体当たり
あの正代独特の立合いをいかに表記すべきか。
「正代の立合い」と書けば誰もが想像はつくのだろうが、用語化するなら体当たりとするのがもっとも妥当なのだろう。
受けに回らなくなったどころか、相手を跳ね飛ばすほどの圧力を得て、急速な番付向上に結びつけた様は、かつての髙安に重なる部分も。

もろ差し
左→右の順でもろ差しを狙うのが大半。
既述の通り、すぐに差すというよりは当たり勝って前に出ながら…という流れを作れるようになった現状だが、宝富士・栃ノ心など相手がガチガチの四つ相撲の場合は、争点となる側の脇をきちっと締めて当たり、差すことに対する比重を高めるのも事実である。

左(外)ハズ
立ち合いの強化によって、対突き押し戦に絶大な効き目を放つようになったのが左からの(外)ハズ。良い位置に当ててあてがってやれば、相手は突き手が伸びず、突き放して自分の距離・自分のペースに持ち込むことを封じられる。あとは、そのまま左から差すなりいなすなり、押し返すなり、左で起こしながら右を差すなり体勢に応じて体を動かしていけばいい。
一見アゴが上がっているように見えても、この左ハズと腰の構えが安定している限り、簡単には崩れない。新大関場所の足首負傷で土台に揺らぎが生じかねないのは気がかりだが…




<攻防分析>
押し相撲の力士からすれば柔らかさにこそ手を焼くものの先手自体は取りやすく、四つの力士からしても序盤はスローテンポの差し手争いになりがちなので、そこに意識を集中していればよかったのが嘗ての正代。
しかし、当たりが強く出足良く、めっきり勝ち味が早くなった現在の姿に以前の面影はなくなり、相手としては想像していた時間やスペースとはかけ離れた状態で立ち回りを強いられる感覚ではないだろうか。

それだけに、今後注目したいのは正代の新たなテンポに対戦相手がどのように適応していくか。今までの感覚で当たりに行って跳ね返されるのであれば、跳ね返されないような腰を作って受け止めることを意識するなど対戦相手にもさまざまな腹案が生まれよう。
相撲のタチが変わり始めてまだ1年足らず。実力者たちの正代対策もそろそろ煮詰まり始める頃合いではないかと見ている。



☆主な得意技一覧
もろ差し寄り
左→右の順に入ってもろ差しで寄るのが正代のもっとも得意とする形。
差し込んでから相手を揺り起こし寄り詰めていく際の肩の寄せ・足の送りは元来定評のあったところだけに、立合いで素早く相手を起こすことさえ出来る現状、自ずと全体の流れも良くなっていく。

左四つ寄り
左四つの場合は右おっつけとのコンビネーションも有効。どちらかと言えば左四つ得意だが、上手を引いて攻めるという形は多くない。

右四つ寄り
かつては右四つの実力者相手に半身にさせられるか、外四つで寄られると極めて苦しかったが(魁聖に不戦勝を除き9戦9敗)、立ち合いの威力が増した最近は左からの攻めが早く、おっつけ乃至おっつけてからの左上手で速攻を仕掛ける相撲が出てきた。
相手の突きを左で受け止めながら右を差して寄る相撲も。

掬い投げ
立ち合いで左を差した後の二の矢で出ることが多い左からの掬い投げ。振っておいての右巻き替えというコンビネーションを目論むが、相手が強引に出てくれば、柔らかい腰に乗せてそのまま振り飛ばすことも。
出足を利用できればいいが、そうでない場合にも腕の力だけで強引に振ろうとする場面がたびたびあるのは不安の種。

突き落とし
左からの逆転技が掬い投げなら、右は突き落とし。初優勝成りし翔猿戦の決まり手でもあった。左で振っておいての右というパターンもあるが、掬い投げ同様、乱用は故障の原因になりかねない。

巻き替え
上述の通り、投げで振っておいて…というパターンが多い。もみ合いの中で仕掛けることもあるが、そんなに上手い方では…

うっちゃり
腰の良さを生かした所謂「うっちゃり腰」の持ち主。すべてを確認したわけではないが、3年初場所隠岐の海戦を含め、勇み足の勝負結果による白星が通算4つもある。

あてがい
左ばかり強調してきたが、右からあてがって右に回ることもできる。3年にわたって7連敗中していた貴景勝に令和2年以降3連勝しているのは突き押し相手に強みが増した何よりの証だろう。








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松鳳山裕也 出身:福岡 生年:昭和59年 所属:二所ノ関 身長:178センチ 体重140キロ 

<立合い分析>
松鳳山といえばもろ手突き…というイメージも強いが、現在はあくまでバリエーションの中の1つ。かましていくのは勿論、左差し・両差し・張り差し・左右にずれながら相手の差し手を封じる狙いなど数多くの立合い技を相手に応じて使い分け、巧みに機先を制する。
立合い正常化の流れにおいてやり玉に挙がった呼吸及び手つきの拙さに関しても、(特に後者については)一応の改善が見られる。


踏み込み足:採る立合いによってさまざまに変えている。書き始めると長くなるが、簡単にまとめれば右足・左足・両足跳びのすべてを用いる。
手つき:両手をさっと下ろして立つのが基本。先に手をついて待つ場合は右→左の順。
チョン立ちをする力士の宿命とも言える手つきの有無に関しても、しっかり両手を着くようになっている。相手が先に両手を下ろして待つタイプの場合などに両手を完全には着かず立っていくこともあるが、これは相手の仕切りにも問題があるため、片方だけを責めきれない面も…勿論、どのような場合でもしっかり両手を着くのが前提であり、改善できるに越したことはない。
呼吸:問題がより多く残るとすれば、やはり呼吸具合の方だろう。多く指摘がなされている通り、腰を割ってから立つまでが非常に長く、自分だけの呼吸でサッと両手を着いて立つため、不成立や中途半端な間合いで立ってしまうケースは依然多い。
それでも以前と比べれば、過度の焦らし戦法とも取れるような仕切りや、3度4度と不成立になるような場面は減っており、筆者は上記の通り、改善基調にあると見ている。



<攻防分析>
最大の持ち味は回転と手数、ときには張り手も交える気迫満点の突っ張り。もっとも最近はすっかり左差し狙いの相撲が多くなったという印象だが、元来必ずしも突っ張り一本槍というタイプではなく、本人が言うには「何でも思い切るやる相撲」「突っ張りはあくまで中に入るための手段」とのこと。
最近、歳相応の円熟味が現れつつあり、中に入る手順・入ってからの攻めに再現性が出てきたのは、同郷・同門の先輩嘉風に通じる。左を差してから、体の割には大きく使いがちであった右も「小さく」「下から」使えるようになったのでもろ差しの機会が増えたのもそうだが、30年初場所の勢戦などは普段右からの小手投げに足が送れずにバタッと行くところ、この日は終始右の攻めが良く、サッと体を左に寄せていったのも変化の兆し。
良い感覚をどこまでも体に刷り込ませ、確たる勝ちパターンへと昇華させることが、向こう数年を幕内の舞台で活躍し続けるための助けとなるだろう。



<平成30年の見どころ>
29年九州は地元で久々の上位挑戦場所となったが、秋場所後に路上で転倒し病床にあった師匠のために…と気負いすぎたか、怪我もあったようで無念の3勝12敗。
しかし、去る1月では早々に勝ち越して失地回復、もっか再起に向けてリハビリに励む師匠にも1場所遅れの吉報を届けられた。
嘉風・玉鷲という、30代をゆうに超えてから三役常連として全盛期を謳歌する同門の強豪は何よりの見本・手本になることだろう。「34歳での新関脇」なるか、最近の相撲ぶりを見るに個人的には大いにありうると考えている。

正代直也 出身:熊本 生年:平成3年 所属:時津風 身長:184センチ 体重:162キロ

<立合い分析>
すっかり評論家からの厳しい指摘がおなじみとなった感のある腰高の立合い。
相撲の取り方も相まって、なんとなく190センチくらいありそうに見えるのだけど、実は184センチ・162キロという幕内上位では決して大きいとは言えない体格で、(これまた意外という他ないのだけど)自分より背の高い鶴竜との対戦時に、立合いの高さが一腰以上違うのだから、歯が立たない(対戦成績0-5)のも当然だろう。
本当は突っ張りが出るようになればいいのだろうけど、なかなか現状の立合いを根本的に変えるのは難しいはず。素人考えならば、胸から来るもののと予測して思い切りかましてくる相手をもろ手で止めてから捕まえるだとか、両手を出しながら少しずれるように立って差しにいくだとか色々応用は効きそうに思うのだけど、あまり小手先の相撲を覚えすぎても芳くはないか(張り差しも差した腕がすぐに返る方ではないため、極められる可能性が高く、現時点ではやらないほうが良い)…
相手の取り口・狙いに応じて、当たり方を少しずつ変えてみたりはしているものの、やはり基本となる腰の高さが変わってこないことには、継続的な形での強さには結びついていかない。激変が難しくとも、日々の稽古・基礎の反復によって無理なく腰が下りる位置を少しずつでもモノにしていく努力が求められる。


踏み込み足:左足 
手つき:両手を下ろして相手を待つ場合と、後から腰を割ってサッと両手を下ろしていく場合とがある。
呼吸:基本的には先に両手を下ろすタイプだが、決して早め早めに仕切ることで「相手を待ちたい」方ではない。昨今の幕内上位は、相手と呼吸を合わさずさっさと両手を下ろして待つ人と、なかなか腰を割らずor手をつかず自分の呼吸に固執する人とに二極化されているが、正代は、そのいずれにも自分(対戦相手のこと)の呼吸を許容してやるかのような立合いで、一言で表せば人の良さが滲み出ているとでもするべきであろうか。
悪く言えば「ずるさが足りない」ということにもなり、「横綱大関のような立合い」という皮肉を向けることも出来てしまうのだが、本来非難されるべきは格下を露骨に焦らしたり、手をつかないばかりか下ろさないで立ったりするのが半ば常態化している上位力士の側であり、正代自身が現在の呼吸具合を棄てるようでは話が変な方向に進んでしまうので、とりたてて直す必要はない。


<攻防分析> 
二本差し込んで相手を揺り起こし寄り詰めていく際の肩の寄せ・足の送りは素晴らしく、大いに見るべきものがある。ただ、どうしても当たりが高い分、左を差して相手を起こすまでの間に一手間がかかるので、その隙を突いて、おっつけるなり極めるなり突き放すなりの反撃に出られている。それ即ち「取り口を研究された」ということであり、そうであるのならば正代の側にも明確な対応策が望まれる。
具体的には、左を攻められるのであれば右からの攻めをいかに繰り出していけるかが重要となりそうだ。

当たってふたつ目の攻めにおいて、前傾を作りおっつけるような場面も観られるようにはなってきたが、これも結局は「高いから」という理由がつきまとい、よほど腰の高い相手でなければ素早くそういう体勢を整えることは難しい。
相手の突きを跳ね上げるようにする動きもまずまず器用にこなすが、この際も相手を視るような姿勢で差そう差そうとしているので、奏功するにもタイミングが合えば…の条件が要る。やはり自分の方から積極的に押し上げて、押しだけで勝負を決めるくらいの意欲を求めたい。


<平成30年の見どころ>
相撲の取り方に重大な欠点を抱える人だけに、29年の土俵は不振ではなく、現状においてやむを得ぬ停滞と見るべきだろう。ここから更に上を目指すにおいては少なくない上積みが求められる。
肘や腰に天性の柔らかさを持つ反面、それゆえの著しい消耗も懸念されるところ、現状維持では大きな怪我を招きかねない。精神的には晩成型のようにも感じるが、体が追いつかないという状況にならぬためにも、できるだけ早く技術的な進歩を見出したい。

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