土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category:2016年 > 夏場所

残り2日分、幕内優勝争いや来場所の動向に関わる3番をピックアップして、今場所分を完了とします。
この後は、別ブログにて恒例の場所後総括を行う予定です。

14日目 幕内
○14-0白鵬(寄り切り)日馬富士10-4● 
立合い、白鵬は左で張って右差しを狙いますが、日馬富士当たりながら左に動いて左上手、続けざまに振り、右下手も引いて青房側に迫るも、上手が深く、白鵬が右下手から掬って凌ぎ、次いで左でおっつけつつ差し手の方に寄せると、 ズルズル後退。
上手こそ与えないものの、横につけず、動きも止まった日馬富士、白鵬も慎重に構えてしばし膠着の後、下手から振って二本入らんとした白鵬の左、日馬富士の右で差し手争いが生じ、日馬富士の右がハズに変わって、足も逆足で左を大きく前に。
再度膠着して場内から拍手。白鵬、日馬富士の前に出た左足を飛ばしたのを呼び水に右下手から振り、もう一度振りながら左をこじ入れ、腰も振って日馬富士の左上手を切る。日馬富士せん術なくなり半ば諦め、白鵬白房へと寄り切って勝負を決めました。


●12-2稀勢の里(寄り切り)鶴竜11-3○
稀勢の里は立合い上体が突っ込みかけたのを踏ん張り、そんなに遅れることもなく立てたかに思えましたが、右からの踏み込みが弱い。鶴竜、左から低く鋭い踏み込んで左四つ右おっつけ(差し手側の足からの踏み込みがハマった時の鶴竜は、左右問わずとても良い角度・良い型で大きな相手の下に組みつけるので、本人も毎場所色々模索はしているようですが、結果踏み込み足が一定せず、たびたびの自滅に繋がっている面もあり、どう考えるかは難しいところだったりします…) 。
稀勢の里も右から起こしつつ、体勢を整えるのですが、結果論としては先に鶴竜の上手廻しを切ることに固執しすぎたか、すぐに切れず動きが止まったところで、鶴竜が先んじて右外掛けから仕掛け、切り返し気味に進展して稀勢の里がバランスを崩すと、稀勢の里反り気味に赤房へ下がりながら下手で振らんとしたところで右足が土俵を割り、痛恨の2敗目(そして、この瞬間白鵬の優勝が決まっています)。一瞬の判断、ワンテンポの攻め遅れが印象度最悪の敗戦を招き、場所後の横綱昇進も消滅してしまいました。
初場所から指摘している稀勢の里の左足首は決して良くなっていないのではないかというのが私見ですが、この日の相撲は鶴竜にピンポイントでその点を突かれた格好でもありました。おまけに土俵下へ落ちた際、左脛をも強打し、負傷してしまったのが気がかり。


千穐楽 幕内
●10-5日馬富士(押し出し)稀勢の里13-2○
立合い、日馬富士は珍しく完全な立ち遅れ。稀勢の里左からの踏み込みが綺麗に入り、上体だけが突っ込んだ日馬富士を右に透かしてから左肘で押し上げ、次いで右喉輪から左差し、差し手を上げると日馬富士が巻き替えんとするところにも素早く突いて許さず。
日馬富士西に下がりざま体勢を下げて差そうとするも距離・タイミングとも合わず逆に左を差され、右で差し手を嫌いながら左から掬いつつ左に回ろうとするも、稀勢の里なおも出足止まらず赤房に迫り、日馬富士が身を屈めて踏ん張るのも構わず押し出し。2場所連続の13勝として、名古屋に綱取りの望みを繋げました。

12日目 幕内
○12-0白鵬(引き落とし)豪栄道7-5●
白鵬はさすがに硬さがあったのか、いや、それ以上に豪栄道の立合いが良かったのでしょう。伏線として、敢えて前日分の惨敗にも触れたのですが、左張り手+右かち上げ対策として、もっともシンプルな方法である「鋭く踏み込んで足の距離を縮める」という立合いに徹し、白鵬の立合いに付け入るだけの隙が十分にあるということを白日の下に晒しました。力みなく迷いなく、本当に完璧な呼吸で立てたように思います。

ただこの一番、そうして豪栄道が張り手+かち上げに絞って踏み込んでくることが予想できるからこそ、白鵬が先々場所以前の対戦で用いていた、右からの張っての両差し狙いや、もろ手を出しながら少し右にずれて差しに行くような立合いで豪栄道の出足を透かすのではないかというのが筆者の予想であり、そうした幅の広さ、引き出しの多さこそが白鵬という力士の凄みだと考えていただけに、予想通りに張り手+かち上げで行って踏み込まれたという内容に、やや違和感を感じたのも本音でした。


…というところまで書くと、あたかも豪栄道が勝ったようですが、さにあらずというのは既報の通り。
前廻しを引きに来る豪栄道に対し、左に素早く動きながらこれを切り、さらに左に回りながら豪栄道が右喉輪に来るを手繰ると、すぐさま逆襲に移り左右で突き放して東に迫り、頭を下げた豪栄道の左足が流れたところを押さえつけての決着となったわけですが、まあ予想以上に踏み込まれたはずなのに、慌てないし、速いし、強いとしか書きようがないですね。


13日目 幕内
13-0白鵬(下手投げ)稀勢の里12-1
直接の敗因ではないのであまり言われていないですが、結局稀勢の里は立合いで遅れてるんですよね…
ただ、白鵬が右で張って左差し、右からおっつけながら上手を引いて西に迫るのを、左半身に構えて守り、持ちこたえたのは白鵬が悪い時のように玉砕的な出方をしなかった所以でもありつつ、この一番をひとまず面白いものとした要因にはなりえた。
白鵬の右上手を切って向正面に逆襲したところが最大の勝機。俵近くに追い込み、左で揺すってから右上手を取るのですが、ここでもう一腰下ろして、上手を取るというよりは右からおっつけて白鵬の腰を伸ばし、浅い上手を取れれば…(そして、一度で叶わないなら構えを崩さず、しつこく同じことをやり続けられれば…)というのが大きなポイントでしたね。
それは、この一番におけるポイントという以上に、長年における技術的な課題でもあるのですが、ここ2場所ほどでかなり改善されてきた面でもあっただけに、この大一番、あのめまぐるしい攻防の中で徹底しきれず、深い上手の方を優先する取り方をしてしまったというので、まだまだ綱を取るには足りないものがあるという実感を強く抱きました。

そこから先は、もうつつがない白鵬ペース。勝者のコメントとして「相手の四つで試したところもある」というような言い方をしていましたが、実際は一時期の照ノ富士も試みていた取り方ですが、左四つ半身に構えて、右から攻めながら下手投げで脅かしていくという攻め方が対稀勢の里における確率の高い策戦である(加えて、もしかするとコンディションの面においても、そちらのほうが取りやすいのかもしれません)ということを十分に見抜いた上で取っているということ。
白鵬の取り口が輪島を連想させるということも各所で聞かれましたが、確かに49年、北の湖の綱取り場所で優勝の夢を砕いたあの一番に似た展開ですよね。

もちろん、凡戦ならまだしも戦評を書く必要さえ生じないような勝負も何度か観てきましたから、名勝負やら永く記憶に残る一番というような書かれ方を見ると苦笑するほかないにしても、総論的なことを書けば、良い相撲が観られたということは本当に喜ぶべきで、とりわけ白鵬が過度に駆け引きめいた立合いを見せなかった点によって、前述「力を試す」との言いようにもそれなりの説得力を含ませることにはなったのかなと思います。

10日目分を2番まで済ませた代わりに、11日目は4番。まずは大器小柳の6番相撲から!

幕下
●5-1巨東(寄り切り)小柳6-0○
三段目付け出しデビューから2場所目、小柳が初の幕下でも無人の野をゆくがごとき連勝街道を走っています。
また場所後に個別記事を書くことになると思うので詳細は譲りますが、大きく取り口を分けると、左四つや突き押しの相手とやるときは体当たり気味に当たってから突き押しに徹し、右四つとやる場合は、右喉輪左おっつけで挟み付けて、そのまま攻めきれれば良し、そうでなくとも根が右四つということで、素早く左おっつけからの左上手に進展させて…という狙いを採るよう。
この日の相手は右四つの長身巨東(三段目全勝)ということで、タイプ的にも的が大きく取りやすい。右を差しにくるところを右喉輪左おっつけで封じ、巨東右を抜いて引っ張りこまんとするところ、すぐに二の足を出して突き放し、腰も据えて東に押し出し。幕下経験も長い実力者も難なく退け、これでデビューからの連勝も13まで伸ばしました。

7番目の相撲は、13日目幕下上位経験者の琴宏梅(5-1)戦。勝てば、阿武咲-高三郷の勝者と楽日優勝決定戦を戦うことが決まっています。


幕内
●5-6貴ノ岩(寄り切り)御嶽海8-3○
御嶽海は根が右四つだから、右差しを左から踏み込んでの左おっつけで封じながら攻め込んでいく、あるいはおっつけてからの左上手で食い下がる形は整っているのだけど、これが反対になる(つまり相手の左=自分の右から起こされる)と、立合いの足運びが不自然(右足が浮き加減)で右おっつけも高くなって、簡単に起こされてしまう(先場所あたりから改善されて来てはいますが)というのは、デビューの当初から書いてきましたが、この日は右四つの貴ノ岩相手ということで、前者の特徴をよく発揮した好内容。
左から踏み込み、右手を出して相手の左前廻し狙いを封じ、左で右差しをおっつけながら東へ攻め寄せると、やや左右の手の使い方を固めきれず、一発で押し切ることはできなかったものの、左上手、出し投げを打ちながら横について、右も前廻し。これはすぐに切られてしまいますが、ハズに当てる形を保ち、ここでじっと我慢して勝機を待ちました。
長くなって貴ノ岩の左は御嶽海の右手首を持つ形に変わりますが、御嶽海なおも落ち着いて機を伺い、ここぞと見るや左足でずっと目の前に置かれていた貴ノ岩の右足を裾払い気味に脅かすと、貴ノ岩の左手が離れ、そこに急襲を仕掛ける。右を差して返し、下手も取って引きつけながら黒房にドッとばかり足を運んで貴ノ岩の腰を伸ばし、寄り切り。自己最高位で11日目に勝ち越しを決めています。

大栄翔の左四つと同じで上位の人にわざわざ自分から組みにいく利はないものの、左四つになるとすっかり上がってしまう顎も十分につけて取れますから、右四つに組めばそれなりの力が出るというところを証明した一番だったように思います。


○11-0白鵬(掬い投げ)琴奨菊6-5●
先場所は白鵬が立合いで呼吸をずらして勝手に立ち、それに琴奨菊が思わず合わせてしまった時点で勝負ありでしたが、今場所は白鵬逸り過ぎて突っかけ不成立。二度目は呼吸を合わせて立つと、白鵬は今場所よく見せる両足跳び加減で右にずれての踏み込み。固めて当たった右を一度は差し負けるように見えたものの、左で前廻しを引いて琴奨菊の重心を右に向けながら、右でも前廻しを探り、琴奨菊が嫌って腰を引き、脇を空けたところで割り込んで右四つ。左上手は切れたものの慌てず、琴奨菊が左おっつけで出ようとする端でサッと左を開いて右に回り肩透かし、進展させながら首も抑えての掬い投げで豪快に決めました。


●7-4豪栄道(寄り切り)鶴竜9-2○
実況は立合い鶴竜の手つき不十分と告げましたが、これは誤り。実際は豪栄道がいつもの癖で左を下ろさず、張りに出たことが原因でした。
いかに上位対決とは言え、露骨な立合いを見過ごしてもらえることはないですし、結局は待ったとなった二度目、成立の三度目とも十分に手を下ろしきれないまま、まったく自分の呼吸を掴めないままで、完敗の憂き目に遭った。

嘉風戦での快勝以降は、まだまだ手つきの問題が山積する現状を露呈した今場所。この日4年ぶりに解説を担当した師匠の辛口コメント通り、しっかりと腰を割り、両手を下ろして鋭く踏み込む正攻法の取り口をもう一度新たに磨き上げていくしかないということでしょう。 

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