土俵一路

本場所中の更新に加え、場所と場所の間は花形力士の取り口分析、幕下以下有望力士の特集などを書いています。 「本場所中も本場所後も楽しめる」をコンセプトとして、マイペースかつストイックに我が道を往き続けます。                他サイト等への転載はご遠慮下さい。

Category: 2017年

今場所はこのタイミングにて行います。
でもって、10日目以降も随時追記していこうかなと。

※13日目終了後、読みやすさ重視で北勝富士・隠岐の海分を白鵬の下に持ってきました。

幕内
白鵬 9-0
今場所は対戦圏内に頭から出るような突き押しタイプが多いゆえ、張り差しを主体とした立合いからの捌く取り口になりがちという事情があり、 相手も頭には入っているのだろうけど、そうした「横軸」とともに、過去の対戦歴という「縦軸」の中では複数のパターンを見せているからこそ、(左で張ると予想したところに右から行くという張り差しも含め)相手に的を絞らせず、休場明けにしては勘も効いているので先手先手と動いていくことが出来る。飛び道具を当てた後サッと相手の右(左)斜め前に「消える」素早さも見事だなと。
食い足りないという意見自体は尊重しますが、 どうあれ「負けない相撲」に徹して、40回目の優勝にひた走っています。

とりあえず目下の注目は明日の一番。上記した事情から今場所はまだ相四つ力士との対戦もなく、まともな右四つに組む場面も殆どないだけに、右下手を深く引いての堅牢な守りが蘇ってきた好調逸ノ城の存在は不気味で、相手の重みに手を焼く可能性はあります。ただ、不調の大翔丸に為す術もなかった今日の逸ノ城がなあ…
随分良くなったかと思いきや、突然(昨年秋場所を全休する原因となった)全然腰が据わらなくなることによる大崩れを数日続けたりするのもここ1年ほどの逸ノ城だけに、横綱の簡単な揺さぶりについていけないのではないかという不安も…
食い足りないという観衆のためにも、右四つの力相撲に展開してくれることを願いたいものです。

・10日目前
稀勢の里休場により、対白鵬に挑むのではなく、「勝ちに行くことができる」数少ない一人、宝富士戦が組まれますか。ちょっと面白くなったかも。

・10日目前その2
11日目に嘉風戦を繰り上げるのか…ってことは12か13に優勝圏内の平幕をぶつけるのかな。正直、それをやってほしいタイミングはこれまで何度もあったけど、今回ばかりは「そこは宝富士のままでいいだろ~」と猛ツッコミを入れたくなる。しかも10日目終了時点で早くも2敗は2人になってしまったので、当てるとすれば隠岐の海(もしくは宝富士の半枚下で7-3の荒鷲)くらいしか居ないんだよなあ。

・10日目後
逸ノ城は腰じゃなく(違うとは言い切れませんが)右膝か…ともあれ立ち合いのもろ差し狙いも封じ、右下手しっかり引いて時間をかけさせたのはイメージに近かった。決して勝機がなかったのではなく、あの体勢で持久戦に持ち込むこと自体が勝機とも言えるわけですからね(北の富士さんも一瞬そう呟きましたが)。まあ、本当の強みを得るためには左からもっと積極的に攻めて右を生かす必要があるのは言うまでもないでしょうけど。


で、明日の嘉風戦ですが、ここのところの白鵬は、右手を出しながら左にかわして勝負をつけるのと、張り差し&かち上げや体当たり気味の立合いで嘉風の顔を起こし、動きを止め、正面から逃がさぬよう、しつこく張りを入れて捕まえるか、足が揃ったところをはたき落とすか。あの勇ましい嘉風が最近の白鵬戦ばかりは、どこか、こわごわ取っているように見えるのも印象的で、明日も白鵬は上記いずれかで来るでしょうから、嘉風がいかに応じて苦しめられるか。
自分から近づいていくよりも、おびき寄せるようにしておいて飛び込むのが理想なれど、今場所の横綱は慎重だからなあ…抽象的に書けば、自分と白鵬との間に、どのように有効な空間を作り、その中に引き込みつつ自分が先手先手と攻められるかということなのだけど。。

11日目後
いやはや、嘉風が完璧にやってのけましたね~
本当に、かましていく突き押し型に対する今場所の白鵬は、(少なくとも、それが仇となって星を落とすまでは)張るかかわすか以外の立合いは「絶対」に近いほどの確率で採ってこないわけですから、理論という名の鎧を着れば、当然「むやみに自分から近づかない」(相手を近づける)ということが大きな選択肢となってくるのです。しかし、誰もかれもそれをやらずに、真っ向から「挑む」ことに徹しているので、望むべくもないのかと思っていた。
今日の嘉風が見せた「近づかない」ことによる空間を最大限に生かしての快勝が、他の力士にとっても何らかの資料になったものと思いたいですね。

…という嘉風の戦術的成功も含めた輝く殊勲の星が、白鵬の醜態によって覆われてしまったのは気の毒な限り。
その内容については繰り返すまでもないでしょうが、一度のみならず、ここ数年、本場所での振る舞いについて小さからぬ問題を起こしてきていることを考えれば、今回は厳重注意に留まらない処分があってもやりすぎとは言えんかなあ…と思いますね。
※ちなみに出場停止のことではないですよ。なぜか(審判部による)厳重注意以上の処分となると、一足跳びで出場停止に進みたがる人がいますけど、理事会に諮る形での懲戒としては、先に「けん責」と「減俸」がありますし、白鵬はまだそのどちらも受けたことがありません。
たとえば、同じ本場所での振る舞いに関わる問題で出場停止(3日間)処分を受けた露鵬は、勝負がついた後の土俵下で千代大海と口論をしたのみならず、その後風呂場のガラスを叩き割り、挙句新聞社の記者に怪我を負わせた事例。いかに今日の白鵬が許されない振る舞いに出たといえど、両事例のバランスを考えれば1日の出場停止を命ずるとて過酷なものでしょう。今回の場合は、あっても減俸までではないかと見ています(報道を見る限り、実際にはけん責までも行かない可能性の方が高そうですが)。


さて、明日は状態を上げてきた御嶽海戦。いかに白鵬とて、たった1日で修正するのは難しいですから、御嶽海ほどの知恵者であれば、嘉風と同じ狙いを持って(昨日嘉風が言った通り、白鵬が素早く斜め前に出るのを防ぎ、正面に置けるかどうかが勘所ですから、やり方は決して一つではありません)中に入ろうとするでしょう。白鵬としては、いかに空間を潰して素早く捕まえられるか。御嶽海に持っていかれる可能性は低いので、それこそ今日の嘉風みたくとりあえず見ていくのも戦術の一つとは言えるでしょう。

・12日目前 「10日目前その2」と併せて御覧ください
せっかく隠岐の海との差が1つに詰まったにも関わらず、13日目は宝富士戦と。なんじゃそりゃ(汗)
まあ、ここに来て宝富士は状態上向き、荒鷲は下降気味なので、11日目に宝富士戦を組むよりは説得力が出たのは確かですね。

・12日目後
なるほど、なぜ名古屋で白鵬が御嶽海に負けたのが今更逆説的に分かりました(笑)
あのときは、右で張って差した左を棒差し気味のまま攻め急ぐように体を寄せていったのですが、今日は同じ形で差した左を十分に返して御嶽海に右上手を許さなかった。それから右上手からの攻めで回りこみを許さず、最後は頭をつけるくらいの姿勢で寄り切り。立合いの呼吸も制していましたし、精神的にも何ら心配はなかったですね。


明日は宝富士戦。今年は宝富士がやや調子を崩していたことや白鵬の休場もあって対戦1度に留まっており、非常に残念な思いでしたが、去年3月に宝富士がこの対戦初勝利を挙げて以降の戦績は、白鵬から見て●○●○と大変な難敵。直近の今年1月は勝ちましたが、立合い左手を出しながら右にずれ、右でおっつけて先手を取ろうとするも、宝富士に右を突破され(左を差され)、右を巻き替えんとするところを土俵際まで詰められる苦戦ぶりでした。
今場所の白鵬はやはり張り差し主体、かつガチガチの左四つで左が堅く受けの強い宝富士相手に右から張っての相四つ(ないし両差し)狙いは意表をつけるにせよリスクも大きいので、やはり喧嘩四つの右を差し勝つため左張り差し、あるいは左を差させないために左張り+右かち上げで弾き上げる策戦が有力、とあらば宝富士としては狙いを絞ってかち上げにも対応できるような形でしっかりと左を固めていくのではないでしょうか。
28年名古屋の敗戦は、白鵬が右かち上げを左から受け止められて泡を食ったことが攻め急ぎに繋がってのものだと考えているので、白鵬としても弾き合って一旦距離が出来るところまでを想定しておけば、その後の対処は問題ないと見ているのかなとは思います。逆に宝富士は自分から突っ込むと動きの速さ・身のこなしでは比べるらくもないので、相手が突かば跳ね上げ、張らば顔を背けず、差さばおっつけと、常に白鵬との間合いを意識しながら落ち着いて対応していきたい。

・13日目後
宝富士の取組前レポート、支度部屋でかます立合いを繰り返していたというのを聞いて、「いや絶対左張り&右かち上げやから、頭で行ったら起こされて終わりやぞ」と一人で突っ込んでいました(笑)
しかし、完全なるダミーだったのか、土俵の上でピンと来て作戦変更したのかは分かりませんが、採ったのは白鵬の立合いをちゃんと予期した上での、上体を起こし左を固めて相手の右かち上げに応ずる構え。

本人が反省した通り、当たり負けたのは確かで、弾かれて後退させられますが、距離が出来たことにより攻め急いだ白鵬の出足とタイミングが合って突き落としの間合いが出来たのも事実。白鵬としてもハッキリまずい攻め方ではあるのですが、これを喰わなかったのは本人の反射神経もさることながら、やはり出足が効いていた分、突き落とすというよりはかわすだけのような格好になって手で白鵬の体を押し付けるように出来なかったこと、そして回りこんだ宝富士の体勢に余裕なく、付け入るのに一拍の遅れが生じたことにも原因がありました。

そこからの流れは「2度目からは余裕があった」と言う通り、また前日の展望で「(宝富士は)自分から突っ込むと動きの速さ・身のこなしでは比べるらくもない」と書いた通り。青房に追い込んでから打った宝富士の右上手(出し)投げも、筆者の観た感じでは、しっかり上手を引きつけられたくない横綱が投げを誘うように自分から動いたように見えました。それゆえ向き直りも早く、不用意に(当然責める余地はありません)「近づいてしまった」宝富士の下に入る形で差しに来る左を右から強烈におっつけておいてのはたき込みとなりました。
白鵬の出足がつきすぎたことによって、両者にとって予想外の慌ただしい展開になってしまったのではないかと想像しますが、最終的には「立合い当たり勝ったものが有利」という原則論がシンプルにものをいったということなのでしょうね。

しかし、この一番・あるいはこの対戦を通して筆者がもっとも主張したいのは、宝富士という力士には「対白鵬」をいかに戦うかという方法論が何重にも張り巡らされているということ。
そして、それは決して宝富士だけの専売特許であってはなりません。こと「対白鵬」という一点に関しては、各力士が「もう一つの相撲観」ともいうべき引き出しを作り、打倒のために研究の限りを尽くしてもらいたい。嘉風の意表をついた立合いが多くの好角家を唸らせたように、白鵬を倒すためのアイデア1つ1つには、相撲の持つ奥深さがまだまだ数多く眠っているような気がしてならないのです。

・明日の白鵬
あまりにも白鵬×宝富士が好きすぎて長くなりすぎた(汗)一旦見出しを分けましょう。
明日の白鵬は、休場となった高安の代わりに、隠岐の海や荒鷲ではなく、(なぜか)遠藤が抜擢されました。
過去の対戦については、こちらの取組別展望記事該当箇所をお読みいただければと思いますが、白鵬の立合いとして予想されるのは、右で張って左差し狙いか、左張り&右かち上げのいずれか。前者は昨年の九州で完全に攻略されているだけに、7分3分で後者ではないかと見ますが、遠藤がいずれを読んでどのように狙いを絞っていくのか。
白鵬にはすぐに上手を引いて優勢を作れずとも、突っ張りの間合いに持ち込んで先手先手と遠藤の体勢を崩していく次善のプランも用意されている(あるいはこちらをファーストチョイスとする可能性もあります)ので、遠藤は距離を取られると苦しくなる。やはり立合いからの流れで距離を取らせず、素早く下から入っていく体勢を作れるかがポイントになるのでしょう。
もし白鵬が左張り&右かち上げで来ると読んで狙いを絞るとすれば、遠藤は左を固めて跳ね上げるというパターンも持っているので、多少ずれ気味に出た上で、先に素早く右を差し、左からおっつけて二本差しを狙いながら攻め寄せる狙いも採りうるか。


・14日目後
遠藤は支度部屋レポートの内容通り、白鵬の立合い(左張り&右かち上げ)を想定済みでした。左四つの遠藤が右差しの形を繰り返していた理由についても、前日分にて触れた通り。
しかし、おそらくは左でいかに右かちあげを跳ね上げるかに集中していたところ、よもや反対側で変化をつけてくるとは…普段はチョン立ち気味に着く左を、十分に下ろさずそのまま顔へ当てるようにしているので、遠藤はそこで間合いをはかり損ねたというか意表を突かれたように顔を左に向けてしまい、そこに右かち上げがぶっ飛んできたので、どうしようもなかったですね…
まあ厳密に言えば手つき不十分なのですが(汗)それ以上に横綱さすがの勝負勘が光った一番であり、狙いを絞ったら絞ったでもう一歩上を行く駆け引きの見事さには、筆者個人にとっても、取り口分析の未熟さを突きつけられたような思いがしています。

優勝が決まったので、明日の豪栄道戦はごく簡単に。
今場所はとにかく張り差しからの急戦戦法に徹した白鵬ですが、優勝が決まったあとの一番で多少の戦術的柔軟性を示すのかどうか。豪栄道としても、こういう余裕があるときの対戦で何か目新しいことをやっておきたいところで、やはり立合いの攻防が見ものになるのかなと思います。


→10日目を終えて2敗は北勝富士と隠岐の海。
今場所の北勝富士は、当たりが左にずれることが少なく、まっすぐ踏み込んでいる。
左にずれること自体決して悪いわけではなく、特に右四つや右四つのメカニズムで左足から踏み込んでくるような左四つ力士と対する場合は左右からの挟み付けが効かせやすくなるなどのメリットもあるのですが、野球に例えればシュート回転と意図的に操作してのシュートボール(ツーシーム)との違いとでもいうのか、先場所あたりは相手の差し手などを考えすぎたゆえか当たりが弱まり、上体も力んで却って固めていったのと反対の脇が空くケースも目立っていた。
しかし、今場所はまずしっかりとかまして相手の上体を起こすというシンプルな立ち合いがよくハマっていますし、特に7日目稀勢の里を見事な押しで下して以降は、型にはまった押しの上手さが目立った従来と比べ、力強さや逞しさの増強を感じる相撲ぶりで、大いに一皮剥けた感があります。

・11日目後
白鵬の「物言い」に関する文章を書く(というか調べる)のに時間がかかって多く割けないのですが、昨日の豪栄道戦も見事な一番。
ポイントに絞って分析しますと、上手切ったのもさることながら、豪栄道に首投げ打たれたところで首をすぼめるようにしながら体勢を低くして詰めるあたりも実に上手い。元々は四つ相撲だったとも聞くので、四つに組んだときの技術や防ぎ手もよく知っているんでしょうね。
12日目は髙安戦、首位と1差になったことで色々なプレッシャーをかけられたりもするでしょうから、引き続き上位とやれるというのは、精神的にも楽でいいんじゃないかなと。
名古屋での対戦同様、髙安の激しい体当たりに腰を崩されることなく、その後の突きにも前傾でしぶとく跳ね上げて対応しながら引きに乗じて逆襲に転じるという狙いをもって挑めば十分に勝機は見えてくるはず。

・12日目後
あまりにも展望で記した中身に適っており、追加で何も書くことがない、北勝富士としては完全に筋書き通りの完勝でした。
明日は大学の先輩にあたる嘉風戦。対戦成績は3-2とリードしますが、夏場所の勝ちは立合いの呼吸がずれたことによる後の先気味の右攻めが効いてのもの、名古屋も攻めこまれての捨て身技による逆転、そして先場所は完全に立合い負け、すぐさま引いて墓穴を掘る完敗でしたから、間違いなく取りにくさはあるかと思います。
ただ、今場所の北勝富士は上記の通り、立合いの圧力がこれまでとは一味違います。今度は当たり勝ち、逆に相手に引かせるくらいの攻めで攻略したい。いずれにせよ突き押し正攻法の好勝負が期待できることは言うまでもないでしょう。

・13日目後
やりましたね~良い相撲でした。 
立ち合い、そんなに悪くないです。相手の左差しを左喉輪右おっつけで攻めながら左に回ると、嘉風は諦めて体を離すように引く動き、付け入って逆襲に転じ赤房側、受けの強い嘉風を攻めきれず、左が空いたところを差され大きく返されたところも危なく見えますが、すかさず反対から攻め返し、相手を起こしているので大丈夫。
さらに重心を右斜め後ろへ移すようにしながら腰を入れて嘉風の両腕を極めあげると、苦しい嘉風が右肩透かしで打開しようとするところ、素早く右足を送って青房、最後は右も差し込んで十分に体を起こし、万全の寄りで仕留めました。
圧勝の域に達しないのは相手も強いのだから当然。互いの力量に鑑みれば、十分快勝と呼べる内容でしょう。

明日は十両時代も含め、苦手にしている阿武咲戦ですが、夏場所は一方的に攻め寄せたところを突き落とされての同体取り直し、先場所の対戦も内容自体は決して悪いものではありませんでした。
夏の取り直し前は右を差す形を作っての攻勢で、それも有効な手段ではあるのですが、はじめから差すことを考えすぎると受けてしまいますから、変なことをしてくる相手でもなし、まずは自信を持って当たり合い、相手の上体を起こしたい。前に出ながら右差し左おっつけの型にハマれば理想的ですね。

一方の隠岐の海は、苦しんできた体調面の不安も拭えつつあるのか、最近のような腰の軽さがなく、格下の相手の立合いをどっしりと受け止めつつ、堂々と退ける地力通りの星取り。大奄美戦なんて、二枚も三枚も格が違うという内容でした。
ともあれ、ここから持ちこたえられるかどうかが真価の見せどころでしょう。実績を考慮しても、三賞を取るには千秋楽を前にもう3番は欲しいですからね。

12日目後
11・12と勝って2敗をキープしています。明日は栃ノ心戦、喧嘩四つの勝負と見做されがちですが、隠岐の海としては去年の名古屋みたく、右四つ左上手で栃ノ心を半身にしてしまえば十分優勢に持ち込める。今年春も両差し狙いから右四つ左おっつけに変えながらの速攻でケリをつけています。とにかく栃ノ心に左を使わせることなく先に先に攻めきれるかが肝要となるでしょう。


・13日目後
策戦的には率直に良くなかった。立ち合いの呼吸を制され、与えたくない左上手(やや深め)をあっという間に許すと、左の差し手も栃ノ心が右廻しを引いて締めるように殺す格好。これで左を抜いちゃうと胸合わされてどうしようもなくなるのでよく我慢したというのが一つ、もっと根本的な勝因としては、右下手を起点に相手の強い引きつけにも終始腰が全然伸びず構えられたことで、改めてコンディションの良さが証明されることになったのかなと。
決着のところは、上記のような体勢で栃ノ心が左上手を引きつけながら出ようと僅かに重心が左へ寄ったときに隠岐の海が巧みに左を差し込んでいく。そして向正面へと下がりざま、この左を使って相手を起こしてからの右下手投げという組み合わせで引きずるように決めました。

明日は3連敗中の難敵玉鷲。少し左にずれてくる立合いと、まっすぐ当たってくるのと2パターンあるのが対応を難しくさせますが、とにかくまともに押しを受けてはいかに好調といえど旗色が悪い。いかに立合いの呼吸を制し、相手の突きを十分に出させずして密着できるかが鍵になりそうです。張り差しはないですが、もろ手出して差してみたり、左にずれながら差そうとしてみたり、立合いは数パターン持っているので、変化球を投げる可能性もありうるか。

稀勢の里 4-5
初優勝した初場所あたりと比べると、コンディションは2割~3割ほど足りず(左足首が悪く、右からの攻めが効かないという点では、昨年1月のような大関時の絶不調場所には近いのかもしれない)それを補うための技術的改良および精神的余裕も見られず、従来通りの取り方に徹する中で、対戦相手に相応の内容および勝敗を重ねているというのが、筆者が冷静に分析した稀勢の里の現状です。
取り方を変えないこと自体は、(根本的な出来る出来ないという問題はさておき)その2割なり3割が戻ることによってスムーズに強みを回復させることに繋がるゆえ良し悪しではあるのですが、そうなると全ては一定の時間的制約を免れ得ない中において、回復が間に合うかどうかにかかっているのかなと。


その点、1割でも戻っていれば、今場所ひとまず二桁くらいは勝てるだろうというくらいの読みがあったのだとすれば、いささか楽観的すぎた感はあり、名古屋を休場するもととなった左足首の故障を主因とする足腰の立て直しも含め、もう一度芯から体を直す覚悟が求められます。
どの道、次の場所で進退を問われてしまうのであれば、(どこかをはげしく悪化させているのでない限り)負け越し覚悟で最後まで出るという選択肢もなくはないですが、恐らくそこまでの要求はされないと思うので、ならば皆勤負け越しというリスクをむざむざ犯すこともない。今場所はここが退くタイミングではないでしょうか。

10日目前
休場決まりましたね。妥当な決断だと思います。しかし、今度ばかりは横審から出されるであろう「しっかり直して下さい」という言葉の意味を何倍にも噛みしめて次の場所に挑まねばなりません。鶴竜ともども新年の再起を心から願っています。
まあ、稀勢の里については新年分の取り口&取組別分析で改めて詳しく書きますので、今回はこのくらいで。

→続報が入ってきたのでその分だけ触れておくと、左足首は場所直前の一門合同稽古の際に悪化させたよう。つまり鶴竜と同じような事情ですね。であれば鶴竜同様、理由を明示した上で休むべきだった。腰の怪我も慢性的かつ足首の怪我とも不可分一体のものでしょうし、とにかく無理な調整をせず、直すことに専念すべきです。
※余談ながら今回、田子ノ浦親方がメディアの誘導に乗らず、進退に関する言質を取られなかったのは喜ぶべきで、あとは本人が不用意な意思表示をしないことを願います…


豪栄道 7-2
白鵬のところで書いた通り、今場所は同じようなタイプの(背丈の大きくない)突き押し勢が上位対戦圏内を占めており、現状の豪栄道の取り方では、どうしても相手が得意とする突き押しの間合いに入りやすいゆえ、負けた2番のような形は出てきてしまう。
とりわけ松鳳山戦は、前日および前回対戦で敗れているという心理的不安も見透かされたか、最近にないもろ手突きからの激しい突っ張りを繰り出され、完璧に主導権を握られてしまいました。
明日からの格下力士は、腰高だったり、自分より身長があったりして比較的当たりやすいですし、追う立場ゆえそんなに重圧もなく、変な立合いに出ることもないはずなので、出来れば1つも落とさず白鵬戦まで持って行ってもらいたいもの。
とりあえず今日の苦手嘉風戦、殆ど負け相撲に近いながらも落とさなかったのは大きい。明日の御嶽海戦、最近の対戦同様の完勝で勢いをつけ、終盤に入って行きたいですね。


・10日目後
御嶽海に敗れて痛恨の3敗目。いや~上手く取られましたなあ。「どうせモロ差し狙いじゃ挟み付けられるだけだ」ということで、突き上げて来ましたからね。少し引いて距離を作ることで密着を許さず、豪栄道得意の右四つながらも体勢を低くしての左おっつけ(右の使い方も好い)で豪栄道有利の根拠となる右を使わせず、豪栄道が焦れて左を覗かせに行こうとして左足が流れたところを逃さず去なされてしまった…
上記したような今場所の豪栄道が嫌がる間合いを狙い通りに生み出し、負傷箇所にも負担をかけない合理的な取り方で殊勲をあげた御嶽海にあっぱれの一番。
豪栄道としては自分自身の踏み込みが悪いわけでなし、単純に相手が良かったという相撲ですから、気落ちせず明日以降ですね。北勝富士も同じような狙いで来るのではないかと見ますが、今日の反省を生かし、我慢して左右のおっつけ・絞り合戦を制し、地道に攻め上げられるかが鍵になりそうです。

・11日目後
連敗で4敗目。うーん、冷静に書いてるつもりではいるのだけど、やっぱり豪栄道に関する分析は、毎回楽観論に寄り過ぎてるのかなあ。とりあえず4敗に消えてしまったので、今場所分は打ち止め…
この日の相撲は北勝富士のところ、千秋楽(番付通りならば)は白鵬のところで書きます。


髙安  6-3
休場明けの不完全なコンディションも考慮すれば、大苦手の嘉風・玉鷲、体当たり戦法との相性がすこぶる悪い好調貴景勝に対する敗戦は想定内で、悲観すべき状況ではない。寧ろ場所前報道に接し、想像していたよりは余程体は動いているし、感覚のズレもそこまで気にはなりません。相手のコンディションを考慮する必要があるにせよ、今日の御嶽海戦なんか弾みのつく勝ち方ではあったのでしょう。
終盤に向けたスタミナ面の不安はあるので、出来るだけ早く勝ち越したいでしょうけど、考えすぎてもしょうがない。無事カド番脱出した暁には、この人あたり、はじめて味わう特有の開放感が良い方向に作用するかもしれません。 

・11日目後
無事カド番脱出で、12日目は1差で追う北勝富士戦。名古屋の完敗も記憶に新しいですが、体当たり戦法とは相性の悪い相手、安易に(張り)差しに出るのも悪手ですし、偶にはまっすぐかまして突き上げるのもアリかなとは思うんですけどね。



11日目に勝ち越しを決めた遠藤、この地位でこの成績自体驚くことでもないですが、デビュー時の「根が生えたような」というところには至らないにせよ、左足首の状態も上向き、相手に無駄なく自分の圧力を伝える理詰めの正攻法(勢戦だけは、左四つ右上手でまっすぐ寄ってしまったという珍しい失敗作でしたが)で幕内前半の土俵に別格の味わいをもたらしています。
やや目を引くのは、右四つの力士に対して、先に右を差し、左でおっつけながら出たり崩したりして行く取り口。当たりの鋭さ、差し手の返し、体勢の低さを生かした流れの中で攻めるからこそではありますが、栃ノ心戦・朝乃山戦のような取り口が「遠藤好調なり」の実感をより強めていることは間違いないでしょう。

※今年は従来通りの全関取レビューをやらないので、11日目以降もここで2人ずつくらい好調力士の取り口を振り返っていくことにします。
 

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この日は幕下の相撲から。

幕下
中大卒の一山本(二所ノ関)は今年初場所が初土俵、7勝・6勝・6勝で早くも幕下へ番付を上げてきました。
ここ数年の学生出身力士は、一時期よりも半端な相撲を取る力士が随分減った印象があり、この人も186センチの長身を生かした突っ張りに徹しているのが何よりも良いところ。
この日は相手琴福寿野の立合いも不明瞭ではありましたが、三点突きの要領で早く当たって先手、数発突いてから右喉輪で向正面へと攻め込まんとする際、足が揃い加減になったところをいなされたので多少泳ぎましたが、体勢の立て直し早く、左足をサッと相手の動いた方(白房側)に運んで左おっつけ気味に体を寄せたので難なく押し出すことが出来ました。


続いてデビュー1年半、幕下は通算5場所目となるモンゴル出身の朝日龍(朝日山)。春・名古屋と20枚目台で負け越し、やや上位近辺の壁に当たっているところですが、そろそろ15枚目以内進出に向けてのキッカケを掴みたいところ。
この日対戦する大元も、しばらく悩まされていた下半身の故障が癒えてここのところ再上昇ムード、年初の有望力士ランキングにも掲載した有望株ゆえ、2連勝同士の対決は個人的にも要注目のカードでした。

立ち合い、朝日龍はかます立合いも持っていますが、この日はもろ手で相手の当たりを止めんとする狙い。距離を作ってから低く当たり直して左前廻しを狙うような格好、これを果たせずも前傾を崩さず積極的に突いていく。大元もこれに呼応し突き押しの応酬となりますが、朝日龍は落ち着いて対応し、常に相手の内側から手を出し、下から下から手を使って相手の嫌がる攻めに徹したのが素晴らしかった。守るばかりではなく自分からもよく攻めていますから、大元は少し間隔が空いたところでたまらず引いて呼び込んでしまいました。
朝日龍、やや足が流れるようにはなったものの、勝機逃さじとばかり正面青房寄りへと急襲、右で引っ張り込み、左は相手の左大腿部を外側から抱え込むようにして挟み付けると、バランスを崩した大元は尻から土俵に落ち、押し倒しの決着。
突っ張り合いになったところでカッとなって上から手が出てしまうような荒っぽさもなく、我慢して基本に忠実な相撲を取り切った朝日龍の成長を感じる一番。こういう相撲を取っていれば、大きな怪我をする虞も小さくなってきますよね。

三段目
本日の3~5年後が楽しみなホープさん、1人目は今場所新三段目昇進のタイミングに合わせ、本名の小林から改名した海舟(武蔵川)。相撲経験なく入門した、178センチ82キロというムキムキの筋肉質はこのあたりの土俵でひときわ目を引きます。
初土俵からはもう2年近く経っているということもあって、瞬発力を生かした鋭い踏み込みで素早く左前廻しを引き、近づいた右も取っての拝み寄りという目指すべき取り口もだいぶ定まってきたよう。この日は幕下経験者善富士を相手にそういう相撲をほぼ完璧に取り切って、最高位の土俵における初白星を上げました。
多少の身長差はあれど、デビュー当初の千代の富士ってこういう体つきだったんじゃないかなとも思わせる逸材であることは間違いのないところ。さらなる研鑽を重ねた先の3~5年後、体重が100キロ前後まで増えてきた頃に開花のときが訪れるかもしれません。

続いては、年初の「相撲」でも部屋付きの不知火親方からプッシュされていた阿武松部屋の勇磨
デビューから3年半を迎える叩き上げ力士で、まだ序二段の頃に生観戦して目に留まったのを懐かしく思い出しますが、2年以上経ってまず体が大きくなりましたね(デビュー当初は174センチ86キロ、現在は176センチ107キロ)。この日の隠岐の岩戦でもよく発揮された回転の良い突っ張り・身のこなしの機敏さといった気風の良さは、どことなくかつて錣山部屋にいた大地を思い出したりもするのですが、立合いからの圧力、おっつける際の足の運び方など全般の相撲力構築はまだまだ発展途上といった感。
ここ1年ほど三段目下位で足踏みが続いていますが、いかに資質が高くとも、ほとんど経験がないまま入ってきた叩き上げの力士にとっては、どうしても一つの壁にぶち当たる地位であり、この時期をいかに辛抱しながら心技体を磨き上げていくかに尽きます。3年後、幕下あるいはそれ以上の地位で名前を見つけられる日を楽しみにしたいですね。


幕下
学生出身の新星若隆景×叩き上げ随一のホープ貴公俊がこの日の好取組。
若隆景は、突き上げんとする貴公俊の攻めを下から跳ね上げ跳ね上げしながら間合いを詰めると、浅く右を覗かせるやすぐさま肩透かしを引いて泳がせ、赤房方向へ猛攻!
ただ、モロハズの構えのまま出たかったであろうところ、まともに差し手が入ってしまったため、伸び上がり加減で寄り方もまっすぐ、貴公俊に右からの小手投げを許す空間が出来てしまった。
正直喰ったかな?と思いましたが、何と何と左太ももが土俵に着きそうになりながらも踏ん張り、掬い投げを打ち返してしまうのだから、その強靭な下半身に驚きました。
決着の形だけ見れば、あの「髷差」に泣いた貴ノ花×高見山をも想起させるような投げの打ち合い、足取り名人とも呼ばれた大波三兄弟のお爺さん(元若葉山)もそれはそれは身体能力の高い人だったようですが、その血統は元幕下の父を経て、脈々と今に受け継がれています。 

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