千代大龍秀政 出身:東京 生年:昭和63年 所属:九重 身長:182センチ 体重:190キロ 

<立合い分析>
千代大龍と言えば、左肩から胸のあたりでかち上げ気味に当たり、右で肩を突くようにして相手を強く弾き上げる独特の立合いが代名詞となっている。
大きな期待を受けながら糖尿病や両足の血行障害など再三の病気や怪我に泣いて停滞を余儀なくされていたが、ようやく体調も回復し、何と190キロにまで増えたパンパンの体つきで、勇躍幕内上位の舞台に還ってきたのは嬉しい限り。最近は休場もなく場所を務められており、コンディションの安定によって取り口の研究に勤しむ余裕が出来れば、一本調子の立合いにもう少しバリエーションも生まれていくのではないか。現状でも右で張ってから左をぶつけていく立合い、もろ手突きなどを併用するが、かましていく立合いがもう少しだけでも増えていけば…と思わずにはいられない。
立合い変化は全然やらなくなった。

踏み込み足:右 左でかち上げながら、右足の踏み込みともに右で相手の肩のあたりを突き、弾きあげんとする。
手つき:おおまかに書けば、相手が先に手を着いて待つ場合は後からサッと両手を下ろし、相手が後から手を着きたい人なら先に右手を着いた状態で待ち、かち上げ(固め)ていく左側は反動をつけやすいよう、多少後ろへ引き加減にして構える。また相手によって仕切り線に手を置く位置や足の位置も変えている。
呼吸:極端に遅かったり、逆にさっさと自分だけの呼吸で仕切ったりということもなく、呼吸を合わせようとする意図は一応見て取れるので、幕内の中で行けば平均レベルには数えられるのではないか。


<攻防分析>
あくまで単純明快な取り口ゆえ攻防の局面においても余り書くこともないのだが、特徴的なのは相手を弾いてから出足の不足を補うために少し引く動きを入れてからまた弾いていくという一連。
このように書くと合理的なことをしているように感じるかもしれないが、この人の場合は、少し引いてもう一度当たり直すときにも肩や胸から行くので上下動が激しすぎてただでさえバタつき加減の足運びがいっそう乱れてしまうのが非常に拙く、あくまで頭から当たり直し、上目遣いのまま視線のブレを最小限に留めている貴景勝との大きな違いと言えよう。
ゆえに結論としては、またしても「せめて当たり直すときには頭からいけないものか…」という部分に集約されてきてしまうのだが、様々な苦労を乗り越えてまた幕内上位に戻ってきた姿を見ていると、細かいことは抜きに「それもこの人の個性としてまるごと味わう」という結びでも良いのではないかとも思えてくる。
かつて、やはり若くして上位に躍進するも怪我や病気で十両落ち、よくカムバックして上位を沸かせた大峩(錦洋~川崎)という人がいて、取り口や体型・欠点(足が流れやすい)も含め千代大龍とダブるところが多いのだが、当時のファンは同じような思いで彼の復活を眺めていたのかもしれない。


もう少し技術的なところに触れておくと、意外と様になっているのは四つ身の方で、根は左四つ。大きい相手には食い下がって取ることもできるし、小さい人には胸を合わせていくことも。差し手の方にサッと出て行く足運びなど、突っ張っていくときより数段スムーズなのも、どこかしら皮肉めいていてこの人らしい。
190キロに達した重みは四つにおいても生きているようで、秋場所は手負いとは言え右四つ得意の栃ノ心に左上手を許す体勢からよく粘り、相手が吊りに来る端を捉えて逆に腹へ乗せるように吊り返してしまったのは驚いた。本当の専門力士ではないゆえ多用は禁物だが、齢30に近づき、幅を拡げることを考え始めてもよい時期とあらば、四つ身も効率よく用いていくことが長持ちに繋がるかもしれない。


<平成30年の見どころ>
屈託のない顔つきと語り口であまり悲壮感を感じさせないが、相次ぐ怪我や病気に心折れそうになることもあったはず。こういう人の立派なカムバックにも目一杯の拍手を贈りたいものである。
上位総当たり圏内から迎える新年、さしあたっての目標は上位定着と三役復帰だろう。